大前研一「ニュースの視点」Blog

KON734「メキシコ大統領/米朝関係~北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?」

2018年7月13日 メキシコ大統領 米朝関係

本文の内容
  • メキシコ大統領 ロペスオブラドール氏が勝利
  • 米朝関係 「アメリカ側の態度は遺憾」

メキシコ新大統領には、トランプ大統領の牽制などを期待したい


メキシコ大統領選挙が1日行われ、新興左派の野党、「国家再生運動」のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドールが2位に大差をつけて勝利しました。ロペスオブラドール氏は米トランプ大統領にも通じるポピュリズムの政策を主張、規制政治の打破を訴え、汚職や治安悪化に対する国民の不満を取り込みました。

ロペスオブラドール氏は、左派のトランプ大統領と言われる人物です。基本的な主張はほぼ同じで、ロペスオブラドール氏の場合は「メキシコファースト」が主張の柱になります。知名度は高かったのですが、これまで2度大統領選には敗北してきました。今回は「メキシコファースト」の主張を軸に、トランプ大統領を批判することで、選挙に勝ちきりました。

ロペスオブラドール氏が見事に53%の得票率を獲得しました。ロペスオブラドール氏が大統領になったことで、めずらしくトランプ米大統領の腰が引けています。「おめでとう、一緒に仕事をできることを楽しみにしている」という趣旨のことをTwitterで発言しています。

ロペスオブラドール氏が大統領になることで、トランプ大統領の牽制につながると思います。また、北米自由貿易協定(NAFTA)を維持するためにも、重要な役割を果たしてくれるかも知れません。

OECDのジニ係数を見ると、メキシコはチリに次いで高い水準となっていて、貧富の格差が激しくなっています。石油の埋蔵量も生産量も減ってきています。代わりに自動車産業など期待できる分野もあります。国別のメキシコへの直接投資を見ると、米国が圧倒的にナンバーワンです。貿易相手国でも、輸出入ともに米国がトップ。輸入は中国、日本と続きます。

メキシコへの直接投資が大きいということは、すなわち、米国企業がメキシコに来てビジネスを展開しているということです。この事実をトランプ大統領は正しく認識せず、メキシコを批判しています。

ロペスオブラドール氏は大統領になって、汚職や麻薬などの腐敗にメスを入れることを公言しています。メキシコは今回の選挙期間中にも、約130人の政治家や立候補者が殺害されています。メキシコという国は、本当に危険な国です。ロペスオブラドール氏にとっても、大変なことは多いと思いますが、トランプ米大統領への姿勢も含め、期待してみたいと思います。




北朝鮮の本性が再び。金王朝崩壊後のシナリオは?


北朝鮮外務省は7日夜、非核化を巡って平壌で行った2日間にわたる米朝高官協議に関して「米国側の態度は遺憾極まりない」とする報道官談話を発表しました。北朝鮮側が米朝間の交流拡大や朝鮮戦争の終戦宣言などを変更して扱うことを提案したのに対し、米国側は完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)などに言及し、「一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した」と非難しています。

ようやく私たちがよく知っている北朝鮮が戻ってきた、と感じます。シンガポールでの両首脳会談では表面的なことしか語られませんでした。トランプ大統領としてのパフォーマンスとしては良かったのかもしれませんが、その後はそうはいきません。具体的なことを話していかなければ、何1つ前に進みません。

今回その役割を担ったのはポンペオ米国務長官でした。北朝鮮側はポンペオ氏を相手にしない、という姿勢を見せています。しかし、ポンペオ米国務長官がやらなければ、ボルトン大統領補佐官が登場するでしょうし、背後にはマティス国防長官が控えています。北朝鮮の思惑通りにはいかないでしょう。

シンガポールでの首脳会談を受けて米国内のマスコミからは、北朝鮮はまた騙すつもりだ、という指摘がありました。ポンペオ氏としても、より具体的な指摘をしていくしかない状況です。それゆえ、非核化のプロセスやステップを明確にし、どのような順序で進めていくのかを明示しろ、という話になったのだと思います。

具体的に言えば、第三者が検証できるように、北朝鮮が保有する核開発の施設、開発リストをすべて提出すること。完成したと言われる核弾頭は20基あると言われていますが、責任を持ってそれらを破壊するので、すべて引き渡すこと、など。

このような具体的な話になると、北朝鮮は「強盗のような要求だ」と非難してきます。北朝鮮がどのような国なのか、ということをあらためて十分に理解できたはずです。トランプ大統領は、話題を提供することしか頭になく、具体的に話を進めることは何1つ考えていません。結局、具体的に落とし込もうとすれば、すぐに北朝鮮は態度を変化させますし、関係性も悪化します。

シンガポールでの首脳会談は曖昧なまま終わりましたが、唯一期待できるのは、トランプ大統領は金正恩氏に「何かあったら、直接電話しろ」と、自身の携帯電話の番号を伝えたと言われていることです。もしこのまま事態が進み、金正恩氏がトランプ大統領に直接相談しなければ、トランプ大統領のことですから、「相談がなかった」ということで強硬手段に出る可能性も大いにあります。本来なら、シンガポールの首脳会談でもっと具体的に話を詰めておくべきですが、今はこのトランプ大統領への直接電話という切り札が、北朝鮮の抑止力になってくれることを期待したいところです。

もし北朝鮮の金王朝が崩壊するとしたら、どのようなことが予想できるでしょうか。韓国、中国、ロシアはが虎視眈々とその機会を狙っていると思います。韓国は南北朝鮮の統一をすぐには望んでいないでしょう。統一すれば、韓国側の財政負担が大きいからです。一人あたりGDPで1000ドル未満の国と、2万ドル近い国では差が大きすぎます。この差がある程度埋まるまでは、植民地のように安い値段で労働力を活用し、自国の力をつけることに専念するはずです。

中国もすでに人件費は北朝鮮より高くなっているので、北朝鮮が倒れたら、その安い労働力を活用したいと考えているでしょう。ロシアも極東ロシアの開発で人員が足りておらず、北朝鮮の労働力を手に入れたいという思惑です。

隣国はすべて北朝鮮の崩壊を絶好の機会として狙っており、邪魔なのは金王朝だけという状況になっています。そして崩壊しても、北朝鮮国民は職もあるし、恐怖から開放されて安心して過ごせるはずです。その後、段々と生活レベルが上がってきて、韓国と同じレベルの待遇を求めるようになってきたら、ドイツのように統合する道が見えてきます。かつてドイツのコール首相は西ドイツを主力として、統合を実現しました。これは大英断だったと私は思います。韓国と北朝鮮が統合するなら、誰かがかつてのコール首相の役割を果たす必要があるでしょう。



---
※この記事は7月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、米朝関係の話題を中心にお届けいたしました。

非核化を巡り、米朝高官会議が平壌で行われました。

シンガポールの両首脳会談で、
非核化の共同声明にサインした北朝鮮。
しかし、具体的な話になった今回の米朝高官協議に関しては、
「強盗のような要求だ」と態度を変化させました。

これに対して大前は、シンガポールの首脳会談では
トランプ大統領のパフォーマンスとしてはよかったかもしれないが、
非核化に向けて具体的な話をしていかなければ
前には進まないと指摘しています。

記事中で、非核化のステップなどを
具体的に提示していますが、
問題解決にあたっては、課題を定義した上で
一つ一つのステップに取り組む必要があります。

問題解決のステップを具体的に進めていくことで
大きな成果につながります。



▼8月開催!参加費無料「AirCampus授業体験」
大前研一学長の講義とセルフリーダーシップ、2つの講義を受講可能
BBT大学の入学を検討されている方におすすめします
http://tr.webantenna.info/rd?waad=3GbK9z5T&ga=WAAAAk-1&ugad=3GbK9z5T





問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点