大前研一「ニュースの視点」Blog

KON732「英EU離脱/イタリア情勢/ギリシャ情勢/イスラエル情勢 ~ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安」

2018年6月29日 イスラエル情勢 イタリア情勢 ギリシャ情勢 英EU離脱

本文の内容
  • 英EU離脱 先行き再び不透明に
  • イタリア情勢 少数民族ロマの調査実施へ
  • ギリシャ情勢 8月にギリシャ金融支援終了
  • イスラエル情勢 ネタニヤフ首相の妻サラ夫人を在宅起訴

英国EU離脱によって、United kingdomの崩壊の可能性


日経新聞は20日、「英EU離脱、先行き再び不透明に」と題する記事を掲載しました。19日に公表した共同文書について、EUのバルニエ首席交渉官は「アイルランド問題をめぐって深刻な相違が残っている」と警鐘を鳴らしたと紹介。当初は6月の首脳会議でアイルランドの国境問題を打開する想定でしたが、英国側がメイ政権の求心力低下により具体策を示せていないのが現状で、交渉が「白紙」に戻り、2019年3月に無秩序な離脱に陥るリスクも意識され始めているとのことです。

無秩序な離脱、すなわち、「合意しないまま離脱する」という可能性が浮上しています。アイルランド側の言い分としては、共通旅行区域(Common Travel Area)は、EUが発足する前から英国とアイルランドの間で取り交わした協定なので、英国がEUを離脱しても不問にしてほしい、というものです。

しかしEU側には認める様子はなく、英国がEUを離脱するならば、アイルランドとの間には国境線を引かなければだめだと主張しています。

実際問題としては、アイルランドから北アイルランドへ働きに出ている人も多いですし、北アイルランドとアイルランドの間は配送トラックが1日の間に何度も往復しているというのが現状です。

このような現状を考えても、この問題はおそらく最後まで尾を引くことになると思います。もしEUが言うように、アイルランドと北アイルランドの間に国境線を引かなければならないとすれば、北アイルランドはEUに残りたいと主張するでしょう。そして、その場合には北アイルランドはアイルランドと一緒になりたいと言うかもしれません。

これは「United Kingdom」の崩壊を意味すると思います。そうなると、北アイルランドに続いて、ウェールズ、スコットランドも離脱し、イングランドだけが残り、「England Alone」になってしまう可能性も大いにあると私は見ています。




ギリシャの財政再建の見通しと、イタリアの今後への不安


欧州連合(EU)は21日、ギリシャの8年に及んだ金融支援を8月に「終了」させる枠組みで合意しました。過去の支援融資の償還期間を10年延長するなど返済の負担を軽減。新たな金融支援なしでもギリシャが財政再建を続けられるようにする内容となっています。

ギリシャのツィプラス首相にとっては、非常に嬉しい状況になったと言えるでしょう。「反EU」を掲げ「負債の支払いはしない」と公言し首相になったものの、ドイツに厳しい指摘を受けて、思うようにはいかない我慢の年月を過ごしてきたはずです。

支援融資の償還期間の10年延長に加え、1部の債権放棄によって、ようやく支援なしでギリシャ再建の道筋が見えてきました。
赤いネクタイを締めて、初めてスーツ姿を現したツィプラス首相としては、嬉しかったことでしょう。

ギリシャの政府債務残高の推移を見ると、対GDP比で約160%という高い水準にはありますが、依然問題を抱えながらも、ギリシャが一応は危機を脱したというのは、EUにとっても非常に重要なことだと思います。一方で、次はイタリアではないか?と言われており、一難去ってまた一難という予断を許さない状況でもあります。

そのイタリアですが、マッテオ・サルビーニ内相は18日、イタリア国内に居住する少数民族ロマに対する調査を実施し、イタリア国籍がなければ国外追放する考えを示しました。サルビーニ氏は今月、地中海で救助されたアフリカ系移民約630人を乗せた船の入港を拒否して非難を浴びましたが、今回の発言にも抗議の声が上がっているとのことです。

サルビーニ氏は反移民を掲げる極右政党「同盟」の党首です。出身地である北部ロンバルディア州は、かつての「ロンバルディア同盟」でも有名ですが、今のサルビーニ氏の考え方はロンバルディア同盟とも異なってきています。

サルビーニ氏が手を付けた問題は、非常に難しいものです。少数民族ロマの人々は、もともとはインドから移住してきたといわれ、中東欧に多いことで知られています。古くからイタリアに来ていて、住所不定であったり、国籍を持っていない人が多いのも事実です。

この人達の問題に手をつけるとなると、イタリアは収拾がつかなくなる可能性が非常に高いと私は思います。事実、彼らが生み出すごみ問題などもありますが、歴代の政府はすべて目をつぶってきました。同じEUのルーマニアとの関係性の悪化も懸念されます。

スペインが受け入れてくれたのでEUとしては面目が立ちましたが、過日、イタリアはリビアからの難民を受け入れませんでした。「反EU」「反移民・難民」を掲げて政権をとっただけに、今のイタリア政府の今後はさらに心配になります。イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、と私は懸念しています。



長期政権になると、どこの国も同じように腐敗している


イスラエルの検察当局は21日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の妻、サラ夫人を詐欺などの罪で在宅のまま起訴しました。サラ夫人は、首相公邸に料理人がいないように装い、高級レストランから食事のデリバリーを繰り返し注文していたとのことです。

ネタニヤフ首相自身も収賄の容疑で起訴されています。首相在任期間も9年を超えてきて、夫人共々やりたい放題といったところでしょう。ネタニヤフ首相はトランプ大統領とは仲がよく、トランプ大統領は、イスラエルが言うとおりに米国大使館をエルサレムに移転するほどです。トランプファミリーからの支持は得ています。

しかし一方では、完全に国民からの支持は失ってきていて、その1つの象徴が首相夫人のこのような事件でしょう。日本を顧みても、どこの国においても長期政権になると似たようなものだと思うと、残念であり、情けない限りです。


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※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

「反EU」「反移民・難民」を掲げているイタリア政府。

ギリシャの財政再建の見通しが立ってきている中で、
イタリア問題が第2のギリシャ化してしまうのではないか、
と懸念されています。

また、ロマの問題に手をつけるとなると
収集がつかなくなる可能性が非常に高いと、
大前は指摘していますが、正しく現状を認識しなければ、
企業であろうと国であろうと迷走してしまいます。

まずは、現状を見誤らないこと。
そして、目指す状態を決め、それに向かって
どの実現経路をたどるかが重要です。


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