大前研一「ニュースの視点」Blog

KON728「中朝関係/米中貿易/米通商政策 ~北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国」

2018年6月1日 中朝関係 米中貿易 米通商政策

本文の内容
  • 中朝関係 遼寧省丹東で住宅価格上昇
  • 米中貿易 中国製品への追加関税を保留
  • 米通商政策 自動車関税の引き上げ検討

北朝鮮の安い労働力を狙い、やや先走っている中国


NHKニュースウェブは先月20日、北朝鮮と国境を接する中国東北部の遼寧省丹東で、新築住宅の販売価格が上昇していることがわかったと報じました。中朝が関係を強化し経済協力が進めば、中朝貿易の拠点である丹東が活性化するとの期待が膨らんでいるものです。4月の上昇率は中国の主要70都市で最も高くなっているとのことです。

中国と北朝鮮の長い国境の両端の重要性が増しつつあります。豆満江の端でロシアに接するデルタ地帯は、ロシアが虎視眈々と狙っています。日本との関係を含め、平和条約が締結されて、まともな付き合いができることになれば、重要度が増してくる地域です。

一方、遼寧省丹東は中国側から見て北朝鮮の入り口に最も近い場所です。すでに住宅だけでなく会社の事務所なども埋まってきていると聞きます。中国としては、橋を渡って通勤してもらえれば、北朝鮮の安い人件費を使いたい放題だと考えているのかもしれません。こうした動きは、中国のIT企業などにも広がっており、私としては若干先走っている状況だと思います。




中国との貿易戦争をすっかり忘れ、さらに暴走するトランプ大統領


ムニューシン米財務長官は先月21日、米中両政府が17、18日の貿易協議で「追加関税の発動を保留することで合意した」と発表しました。米国が抱える対中貿易赤字の削減に、中国が取り組んでいる間は中国製品に高関税を課すことを棚上げするもので、農作物など中国への輸出を増やす具体案を詰めるため、6月にはロス米商務長官が中国を訪問するとのことです。

トランプ大統領の記憶力の無さには、驚くばかりです。あれほど「中国と貿易戦争だ」と叫んでいたのに、「今回は追加関税をしない」と言い出しました。全く以て私には理解できません。

同時に、中国ZTEへの制裁緩和も決定したようです。米国は4月に、米企業がZTEと取引をすることを7年間禁止すると発表していました。米国からの部品提供がなければ成り立たないため、ZTEは5月には主力事業を停止したことを公表。このままでは倒産するしかない状況で、中国政府にとっても非常に大きな悩みの種になっていました。

これに対する解決策としてトランプ大統領が提示したのは、1400億円の罰金の支払いでした。このような無茶苦茶な「ディール」は、私も見たことがありません。トランプ大統領のやりようには呆れるばかりですが、中国政府もZTEも条件をのみました。ZTEが倒産して大きな問題に発展するよりはマシということでしょう。

ムニューシン米財務長官もロス商務長官も、強い態度でトランプ大統領を諌めるわけでもありません。二人とも十分すぎるほど資産も持っていますし、一線を退いた老後のような意識なのかもしれません。




日本の自動車メーカーの米国への貢献を誰も主張できない日本の情けなさ


側近たちも歯止めにならないトランプ大統領の暴走は、さらに日本にも飛び火してきそうです。トランプ米政権が安全保障を理由に自動車の関税引き上げを検討していると複数の米メディアが報じました。現在2.5%を課す乗用車の関税を最大25%に上げる案を視野に入れているということで、これが実行されれば、自動車輸出で成長してきた日本に大きな打撃となりそうです。

基本的にトランプ大統領は、自動車業界の現状について全く理解していません。例えば中国市場について言えば、確かに一番売れているのはフォルクス・ワーゲンです。しかし、2番目に売れているのはGMです。フォードはそれほど売れていませんが、それでもトップ10には入っています。中国市場において、米国の自動車メーカーがもてはやされているのは間違いありません。

一方、日本に対しては「安全保障上の理由」で自動車に課される関税を引き上げる可能性があるとのこと。ミサイルなどの兵器でもない自動車が、なぜ「国家の安全保障上=ナショナル・セキュリティ」の理由になるのか、もはや意味不明です。

そもそも米国において、GMもフォードも自動車メーカーはすでに国家戦略の中枢ではありません。このことすらトランプ大統領は認識できていないのでしょう。米国で販売される新車メーカーの内訳を見ると、米ビッグ3で44.5%、日経メーカーで39.1%となっていて、ほぼ同じ水準になっています。

この30年間、日本の自動車メーカーは米国にいじめられながらも生産拠点を米国に移してきました。今、日本の自動車メーカーは米国内で400万台生産しています。エンジンの生産台数は470万台です。さらに、工場は24箇所あり、研究開発・デザイン拠点は43箇所にのぼります。

労働者数を見ても、直接工場で働いている人数が9万人。ディーラーなどを含めた数では150万人に達します。そして米国への累計投資額は456億ドルで5兆円を超える規模になっています。

これだけ米国内での生産や雇用に貢献しているのに、それでも不満というのでしょうか。米国で販売される日本メーカーの車の75%は米国製で、日本製の輸入車は25%に過ぎません。おまけに、米国製の日本車は41万台輸出されています。この中には日本に逆輸入されるものもありますが、それを差し引いても米国の貿易に貢献していると言えます。

先ほども述べましたが、日本の自動車メーカーは米国のビッグ3とほぼ同額まで米国内で自動車を生産しています。この30年間で米国内の生産を伸ばしてきたのは日本勢です。米ビッグ3ではありません。

日本の自動車メーカーは、日本国内での生産を犠牲にして米国での生産を伸ばしてきました。その一方で、先日フォードは「マスタング」「フォーカスアクティブ」の2車種を除いた乗用車の北米販売を今後数年間で取りやめることを明らかにしています。私に言わせれば、トランプ大統領はこの情けない自国の自動車メーカーの尻を叩くべきです。

この一例を見ても分かる通り、問題は「ナショナル・セキュリティ」ではありません。この様な事実を認識できていないトランプ大統領には呆れますが、日本の経産省あるいは安倍首相が、トランプ大統領に対してとことん説明する必要があります。

30年間、日本の自動車メーカーは米国にいじめられながらも、対米進出を成し遂げてた事実を徹底的に周知することが重要です。


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※この記事は5月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

北朝鮮に最も近い中国の町、丹東市では、
最近の南北首脳会談や北朝鮮の非核化をめぐる動きから、
新築住宅の販売価格が上昇しています。

こうした動きは、すでに住宅だけでなく
会社の事務所なども埋まってきているとされている一方、
若干先走っている状況だと大前は指摘しています。

自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が、
現在または将来にどのような影響を与えるかを
把握・予測することは、事業を成功に導くために不可欠です。

政治・法律的環境要因は
企業では制御できない前提条件となってきます。

新たな政治的な動きや法律が施行された場合は、
市場や自社に対してどのような影響が与えられるかを
事前にシミュレーションしておくことが重要です。


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