大前研一「ニュースの視点」Blog

KON723「北朝鮮情勢/日米貿易~トランプ大統領は、「TPPが何か」を本当のところは何も理解していない」

2018年4月27日 北朝鮮情勢 日米貿易

本文の内容
  • 北朝鮮情勢 核、ICBMの実験中止を表明
  • 日米貿易 「2国間貿易協定の方が望ましい」

北朝鮮のICBMの実験中止は、まともに信じるべきではない


北朝鮮の金正恩委員長は20日、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を中止する方針を表明しました「核武器の兵器化完結が検証された状況で、北部核実験場もその使命を終えた」と述べたもので、以降は強力な社会主義経済の建設と周辺国との緊密な連携と対話を積極化する方針を示したとのことです。

この金正恩委員長の発言は信じないほうがいいと思います。現在の北朝鮮の状況は、ICBMの開発が最終段階まで来ているものの、最後に米国まで届くかどうかの瀬戸際で、そこに核を搭載して米国本土で爆破できるかどうかという点についても、最後の最後で苦戦しているのだと思います。

最後まで開発をしようとしていたのに完成しなかったとなっては立つ瀬がないので、自ら「中止」したとすることで交渉材料の1つにできると考えたのでしょう。

この発言通りの方針であれば、ICBM以外の中距離、短距離ミサイルの開発もやめるのが当然ですが、その点については一切触れていません。また核放棄についても明言していません。

このような北朝鮮の背景を理解せず、トランプ大統領は脳天気に「大きな進展で今後が楽しみだ」などと発言しています。こんな北朝鮮の交渉術に引っかかってしまったら、不幸以外の何物でもありません。

これまでにも、北朝鮮との非核化交渉には失敗の歴史があります。1994年からの米朝対話も、2003年からの6カ国協議も全て北朝鮮は反故にしてきました。誰かがトランプ大統領にこの歴史を解説してあげるべきだと思います。

北朝鮮が恐れているのは、リビアのように米国主導で核放棄を強制されることです。最低でも体制の保証を得たいと思っているでしょう。今回の金正恩委員長の発言の意図、本当に意味するところを理解せず、トランプ大統領が信じてしまうのは、情けない限りです。あまつさえ「この条件を引っ張り出したのは自分の功績」だと勘違いして、秋の中間選挙に向けて好材料だと安く飛びつくのは、やめてもらいたいところです。



トランプ大統領は、「TPPが何か」を本当のところは何も理解していない


トランプ米大統領は18日、安倍首相との一連の会談後の共同記者会見で「米国にとって2国間の貿易協定の方が望ましい」と述べ、日米自由貿易協定(FTA)を含む交渉に意欲を示しました。一方、安倍首相は「わが国はTPPが日米両国にとって最善と考えている」と強調。自由貿易に関する認識の開きが浮き彫りになりました。

もともとトランプ大統領は選挙キャンペーン期間中からTPPを離脱すると公言し、実際にTPP離脱のサインをしました。今になって、条件がよければTPPに復帰しても良いなどと発言していますが、正直に言ってトランプ大統領は「TPPが何か」を本当のところは何も理解していないと思います。

例えば、TPPに関して「良い条件」「悪い条件」の具体的な内容について話してほしいと言ってもまともな回答は得られないでしょう。「今、なぜTPPがダメなのか?」と聞いても同様でしょう。何も勉強せずに平気であれこれと発言してしまうのが、トランプ大統領の特徴です。

日本と米国との間に巨大な貿易赤字があり、これを是正することが重要だと、トランプ大統領はしきりに訴えています。そして2国間協定(FTA)に追い込もうとしています。FTAに関しては、過去の日米貿易戦争の頃に何度も検討したことがありますが、米国は理不尽に業界の利益丸出しで交渉してくるため、非常にやりにくいところです。

そもそも、日本は過去30年間にわたって貿易赤字の解消のために米国と交渉を続けてきて、自動車関連業界を中心に製造業の拠点の多くを米国に移しました。その結果、米国で多くの雇用を創出しています。こうした貢献を全く知らずに、貿易赤字を解消しろの一点張りで騒ぎ立てているのがトランプ大統領です。

30年前の無知な状況を繰り返しているだけで、勉強する気すらないのでしょう。状況や相手のことを理解しようとはせず、とりあえず威圧的な態度を取って相手から1つでも2つでも有利な条件を引き出そうという、いわゆる「ディール」しかできない人物なのだと思います。

今米国は中国に対して、鉄鋼やアルミなどに関税をかけるなど貿易戦争を仕掛けていますが、これは当然のことながら、中国に対してだけでなく、オーストラリア、ブラジル、日本、シンガポールなど他国にも大きな影響を与えます。それ故一筋縄ではいきません。

だからこそ、TPPで多国間協議をすることには大きな意味がありました。そして、言い出したのはそもそも米国です。こうした歴史的な背景や意義を全く理解もせず、勉強もせずに、言いたいことを言っているだけの人物など、私に言わせれば、まともな話をするのは無駄だと思います。

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※この記事は4月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、世界情勢の話題を中心にお届けいたしました。

日米自由貿易協定(FTA)を含む交渉に意欲を示したトランプ大統領。
日本との自由貿易に関する認識の開きが浮き彫りになりました。

これに対して大前は、トランプ大統領は「TPPが何か」を
本当のところは何も理解していないと指摘しています。

今になって、「条件さえ良ければ」TPPへ加盟の可能性も
示唆しているトランプ大統領ですが、
意思決定を行うにあたっては、正しく問題を認識し、
問題を解決するための具体的な行動案を設計し、
その効果や影響、費やされるコストを評価し選択する必要があります。

このように、影響の連鎖の探求やリスク許容限界の設定などを
行ったうえで、意思決定を行うことが重要です。


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