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KON716「米通商政策/米トランプ政権 ~鉄鋼やアルミに関税を課しても、何1つ問題は解決しない」

2018年3月9日 米トランプ政権 米通商政策

本文の内容
  • 米通商政策 鉄鋼、アルミの関税導入へ
  • 米トランプ政権 クシュナー上級顧問の最高機密扱う資格取り消し

鉄鋼やアルミに関税を課しても、何1つ問題は解決しない


トランプ米大統領は1日、鉄鋼輸入品に対し25%、アルミニウム製品には10%の関税を課す方針を明らかにしました。トランプ氏は「鉄鋼とアルミニウム産業をわが国の手に取り戻すだろう」と語りましたが、中国、欧州、カナダなど主要な貿易相手国が報復措置に出る可能性もあります。

この関税による規制は、トランプ氏が選挙中に公約していたものですが、相変わらず思考能力がお粗末だと言わざるを得ません。米国の雇用を守ると発言していますが、関税を課すことで鉄鋼やアルミの値段が上がると、例えば車の部品代金に影響し、最終的には消費者に全て還元されてしまいます。

世界の粗鋼生産能力を見てみると、ルクセンブルグのアルセロール・ミタル、中国の宝鋼、河北鉄鋼、日本の新日鉄住金、韓国のボスコが上位を占めており、米国の鉄鋼はすでに世界的に見るとマイナーになっています。それらを守ってみたところで、それほど大きな影響は望めないでしょう。

既に米国産業は、海外から鉄鋼を輸入することで成り立っています。トランプ氏は約22兆円の資金を投じてインフラ整備を進めるという強靭化計画を公約していますが、その費用さえも高くなり、それを納税者が負担するということを意味します。

最終的には「止めておけばよかった」と後悔する可能性が高いと思いますが、トランプ氏にはこの手を打つと次はどうなるのか?という「次の段階を考える」という発想がありません。町のチンピラの喧嘩と同じような発想で、常に激情的な判断をしているため、今回もこのまま突き進むのでしょう。

米国の鉄鋼メーカーを見てみると、ニューコア、アルセロール・ミタルUSA、USスチール、ジェルダウという上位陣のうち、
アルセロール・ミタルUSAはルクセンブルグ系、ジェルダウはブラジル系であり、外資系企業です。米国の鉄鋼会社を守っているつもりでも、米国市場は既に外資系の手に落ちているというのが現実です。

米国からの鉄鋼の輸出先の上位は、カナダとメキシコ。逆に米国の輸入元は、カナダ、ブラジル、韓国となっていて、トランプ氏が頭の中に置いている中国は上位ではなく、実はそれほど大きな影響力がありません。そのことに気づいたのか、最近になって「中国が過剰生産で値段を下げたことで、米国のメーカーが苦労している」と発言内容を変えました。

各国の鉄鋼製品輸出における対米輸出シェアを見ると、カナダ:約87%、メキシコ:約72%、ブラジル:約34%となっていて、これらの国にとっては今回の関税の打撃は非常に大きいでしょう。日本はそれほど影響を受けませんが、自動車業界で一部懸念が出てくるでしょう。日本の自動車メーカーは、部品の現地調達率を高めてきました。鉄鋼やアルミ関連の値段が上がると、やはり最終的にはユーザーへの販売価格に影響してくることになります。

TIME誌は、トランプ氏が選挙の公約で救うと公言していた「プアホワイト」に対して何一つ優遇するような政策を打ち出していないと指摘する記事を掲載しました。減税にしても金持ち優遇の政策でした。思い出したように「鉄鋼の関税を」とやっていますが、この人たちの仕事は今や外資系メーカーによって支えられているという側面もあり、トランプ氏の打ち出している政策は何ら意味を持ちえない可能性が高いと感じます。


クシュナー氏の機密情報のアクセス格下げによるトランプ政権への影響


米CNNが報じたところによると、トランプ政権のクシュナー上級顧問が最高機密を取り扱う資格を失ったことが分かりました。これにより、クシュナー氏が扱える政府の機密情報は大幅に制限されることになります。

今回はモラー特別検察官やFBIにも呼ばれた結果、クシュナー氏はロシアとの接触が広いということで、機密情報へのアクセスの資格を「最高機密」から「機密」に格下げになったとのことです。

クシュナー氏は、イスラエルの問題などにおいてサウジアラビアと交渉するなど、裏技の交渉が得意な人物です。これまでトランプ氏が言ってきたことの多くは、裏でクシュナー氏がお膳立てをしてきたことが殆どでした。今回の機密情報の取り扱い資格の格下げにより、今後クシュナー氏が能力を発揮するにも限界が出てくるでしょう。これはトランプ政権にとっても痛手の1つになると思います。

先日、ヒックス広報部長が辞任し、相変わらず1ヶ月で4人も辞任する事態が続いています。まともな人物は、トランプ氏のサポートなどやっていられないとなって定着しないのも当たり前です。トランプ政権は任命されていないポジションも多く、任命されてもすぐに辞任し回転ドアのように人が入れ替わっていて、全く安定感がありません。



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※この記事は3月4日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、トランプ大統領や米通商政策の話題を中心にお届けいたしました。

鉄鋼やアルミに関税を課す方針を明らかにしたトランプ大統領。

これに対して大前は、鉄鋼やアルミに関税を課しても、
何ら意味を持ちえない可能性が高いと感じると指摘しています。

問題解決を行うにあたっては、課題を定義し、
課題の構造化をした上で、実現可能性と効果のインパクトから
検討の優先順位づけを行う必要があります。

取り組みの効果が最もあがるように、
取り組み資源をどこに配分するか決め、そのために何を優先するか、
また、何に時間を使ってはいけないかを決めた上で、
解決策を立案していくことが重要です。


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