大前研一「ニュースの視点」Blog

KON699「第4次安倍内閣/働き方改革/内部留保 ~「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪にすること自体が矛盾」

2017年11月10日 働き方改革 内部留保 第4次安倍内閣

本文の内容
  • 第4次安倍内閣 安倍晋三氏が第98代首相就任
  • 働き方改革 残業代8兆5000億円減少
  • 内部留保 2016年度末時点で406兆2348億円

「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪にすること自体が矛盾


安倍首相が1日の特別国会で第98代首相に選ばれ、第4次安倍内閣が発足しました。安倍首相は記者会見ですべての閣僚の再任を発表し、引き続き経済最優先で取り組むと表明。また、「人づくり革命」と「生産性革命」を車の両輪として、デフレ脱却に向けて税や予算などの政策を総動員する考えを示しました。

この発表を聞いても、安倍首相が経済を全く理解していない、ということがわかります。私に言わせれば、「人づくり革命」と「生産性革命」が車の両輪になることは、絶対にありません。なぜなら、この2つを同時に進めることは矛盾をはらんでいるからです。

日本において生産性革命を起こそうとすれば、コンピューター化、ロボット化は必須です。それは今までの働き方をする人から仕事を奪い、失業者が溢れることを意味します。そして、本当の意味での「人づくり革命」は、そのような「機械に置き換えられない仕事」ができる人材を育てることにありますが、日本ではそれが実現できません。

機械や他国の労働者に奪われてしまう仕事ではなく、もっと付加価値の高い仕事ができる人材を育てることが重要です。それが出来ていないために、日本は一人当たりの労働生産性がOECD加盟国の中で最低クラスで、過去20年間の名目賃金の推移では、欧米が2倍近く増加しているのに対して、日本だけが落ち込んでいます。

この問題を深刻に捉えていない時点で、私には理解できません。なぜ、これを政治問題化せずにいられるのでしょうか。この重要な問題を5年間放置しつづけた内閣の問題を問うことなく、また同じ人たちで組閣するというのですから、呆れるばかりです。

安倍首相は、「人づくり革命」「生産性革命」「デフレ脱却」という3つのキーワードを並べ立てて、それらしく発言していますが、全く実態が見えていませんし、危機感すら感じていないのでしょう。トランプ大統領が来日すれば、ゴルフに明け暮れるという安倍首相の能天気さが、日本の危機そのものを表していると私は思います。

また、政府が推進する働き方改革もお粗末な展開を見せています。働き方改革で残業時間の上限が月平均で60時間に規制されると、残業代は最大で年8兆5000億円減少するとの試算もあります。残業代は、ある意味、給料の補てんになっていて、GDPにも大きな役割を果たしています。政府は杓子定規な対応で規制に動いていますが、その実態・意味を理解できていないのでしょう。

安倍首相をはじめとして家業が政治家という人は、会社の実態を見たことも経験したこともほとんどありません。委員会を構成する大学の先生なども同様です。残業代が減ると、安倍首相が公言しているGDPの2%成長から大きく遠のく、ということすらわかってないのでしょう。


一括採用をしていては、高度な人材育成はできない


企業においても、同じように危機意識が足らず、明確な対策を取れていません。いまだに新卒一括採用を実施している日本企業が多く、これが高度な人材が増えない理由の1つになっています。50人、100人、1000人という規模で一括採用をすると、その人の個性を見て判断して採用することができません。個性や尖った才能に目を向けないというのは、日本企業の最大の問題の1つだと私は思います。

そして、一括採用を通じて企業に就職した人の多くは、新しいスキルを身につけてステップアップのためにやめるのではなく、その会社が嫌になってやめます。スキルアップ、ランクアップといった発展性がない場合が多いので、環境として高度な人材が生まれにくい状況だとわかります。

しかもほとんどの日本企業は、日本人だけを採用していて、世界から採用するというところに目を向けていません。人事制度と教育制度の問題というのは、日本企業が抱える最大のミスマッチでしょう。

財務省が9月1日に発表した法人企業統計によると、企業が利益を蓄積した内部留保は2016年度末で406兆2348億円となり初めて400兆円を超えたとのことでしたが、ここにも日本企業が抱える問題が表れています。日本企業の内部留保が増えているのは、投資機会や成長機会がないために、大きな設備投資などができる企業が少ないということです。

また、企業が稼いだ付加価値のうち、どれだけ人件費に回したかを示す労働分配率はアベノミクスが始まる前の2012年度は72.3%でしたが、2015年度には67.5%にまで低下しました。これでも世界的に見ると、決して低い水準ではありません。

この状況において、政府はさらに「賃上げ」を要請していますが、労働分配率を上げる(=人件費を上げる)ためには、生産性の向上が必須です。しかし、生産性が向上したとき、事業機会が増えておらず、市場も成長していないのであれば、必然的に人をクビにするしかありません。

インフレの時代であれば賃上げも簡単でしたが、今の日本では労働者自身が「プラスになる仕事」ができなければ賃上げはできません。日本の労働者が「プラスになる仕事」に対応できなければ、その仕事が他国の労働者、あるいは機械に奪われることになります。

賃上げというのは、この労働者の問題が解決しない限り、実現できないのです。内部留保があるので、その分を賃金にするという方法もありますが、それでは企業の将来性はなくなります。あくまでも賃上げ余力は生産性の向上にしかない、と認識し対応するべきだと私は思います。


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※この記事は11月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、国内政治や政策の話題を中心にお届けいたしました。

「人づくり革命」と「生産性革命」を車の両輪として、
デフレ脱却に向けて税や予算などの政策を
総動員する考えを示した安倍首相。

それに対して大前は、日本は一人当たりの労働生産性が
OECD加盟国の中で最低クラスで、過去20年間の名目賃金の推移では、
日本だけが落ち込んでいるという問題を
深刻に捉えていないことが問題だと指摘しています。

記事にもあるように、本当の意味での「人づくり革命」は、
機械や他国の労働者に奪われてしまう仕事ではなく、
もっと付加価値の高い仕事ができる人材を育てることです。

イノベーションや業務の改善など仕事の生産性
を高めることに取り組むことで、
付加価値率や1時間当たりの売上高を高めることができ、
企業の稼ぐ力を高めることができます。


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