大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#123 金融庁による行政処分

2006年7月28日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
 金融庁による行政処分


 金融庁による金融機関への行政処分は、05年度で250件前年度比3倍
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●バブル処理を終え、その役割が迷走し始めている金融庁


金融庁による行政処分の件数が増加の一途を辿っていますが、
これは非常に由々しき問題を含んでいると思います。


処分されるべき不正事実そのものも問題だと思いますが、
まるで警察・検察機関のように行政処分をしている金融庁は、
その役割を見失い、迷走していると私は感じています。


そもそも金融庁とは、バブル問題の処理にあたって、万一、
金融機関が倒産した場合でもその対処をできるように、
大蔵省(現財務省)とは別に発足した臨時組織でした。


バブル問題の処理という意味では、金融庁はその役割を
終えました。


そして、当初の役割を終えた金融庁は、いつの間にか、
行政処分を執行する業界の鬼っ子に変わってしまいました。


ここには明確な役割・目的意識などはなく、単に、仕事が
なくなった役人が自分たちに都合の良い新しい仕事を始めた
というのが現状ではないかと思います。


もちろん、業界の不正を取り締まる仕事も必要です。


しかし、ならば、金融庁と証券取引等監視委員会との
役割分担はどうなるのか?というところを
問いたいところです。


また、今後、金融業界を育てる役割を担うのは誰なのか?
という点も同時に考えるべきでしょう。


バブル問題の処理が終わったといっても、金融業界は
まだまだ健全な状態とは言えません。


東京三菱とUFJの合併を始め、互いに寄り添うことで
安定した図式は作っていますが、元々の銀行の体質が
健全になったとまでは言えません。


ですから、金融機関を育て、業界を発展させる役割は誰かが
担って推進していかなければなりません。


残念ながら、今の金融庁は、検察さながらに行政処分を
繰り返しているため、まるで鬼っ子のごとく
恐れられています。


したがって、金融機関との間に信頼関係はほとんどなく、
この役割を担うことは難しいと思います。


行政処分という役割と金融機関を育てるという役割は、
ある意味、二律背反的な側面を持っています。


いつ自分を取り締まり、業務停止を言い渡すかもしれない相手に
オープンに情報を開示しろといっても難しいところでしょう。


結局のところ、この迷走状態に終止符を打つためには、
一度金融庁を解体するべきだと思います。


そして、必要に応じて、役割と目的を明確にして
新しい組織を発足させるというのが
健全な進め方といえるでしょう。


●金融庁に役人体質の疑念。解体して出直すのが一番健全な道


また、別の意味からも、私は今の金融庁は解体して
やり直すべきだと思っています。


というのは、今の金融庁のやり方では、対人関係や政治力で
不公平な処分をしているようにしか見えないからです。


このような傾向は、小泉内閣発足時から私は薄々と
感じていました。


恐らく、金融業界の中にいる人の多くも同じことを
感じているのではないかと思います。


例えば、大きな事例で言うと、問題を抱えながらも
一切処分を受けずにUFJとの合併を果たした東京三菱は、
三井住友銀行に比べて優遇されているように見えてしまいます。


金融庁は、こういった不公平に見えてしまうような
処分に対して、違反行為と処分の透明性について明確な
説明責任があると思います。


しかし、一方で、インターネットを通じて国民もこのような
事態には気づいているのも事実でしょう。


「知らぬ」と思っているのは金融庁のみというのが実情です。


国民も気づいているから、金融庁の不公平さを
指摘するわけです。


それに対して、金融庁は致し方なく、
その場しのぎ的な対応をしているだけに見えます。


武富士への捜査や損保2社の業務停止命令というのは、
その最たる例でしょう。


何か言われたら、2つ3つ適当に対応して、
その場をしのぐ、というのは役人体質の特徴です。


金融庁は透明性について説明責任はしっかり果たすべきです。


しかし、その責任を果たしても役人体質の疑いが
根本から解決できるとは思えません。


ですから、やはり金融庁は一度解体するべきなのです。


繰り返しになりますが、一度解体した後、必要性を検討し、
もしも必要なら、役割と目的を明確にした新しい組織として
やり直すべきです。


私は、かつて、バブル問題の処理にあたっては、
国家の信用を抵当に銀行をエマージェンシー・ルーム
(緊急看護室)に収容して救済するという
「スウェーデン方式」を採用するべきだと提唱しました。


そのエマージェンシー・ルームとしての役割を果たしたのが
金融庁です。


当時、故小渕元総理などにも提案しました。


現在の金融庁は、私が提案したものとは
大きく異なるものになってしまいました。


金融庁の今後を含め、大切なのは
金融業界全体を健全に成長させていくことです。


その役割を担う公平な責任者が誕生することを願ってやみません。


                                  -以上-


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点