大前研一「ニュースの視点」Blog

KON694「ドイツ連邦議会選/英EU離脱問題/イラク情勢/スペイン情勢 ~イラクのクルド自治区、スペインのカタルーニャ州など独立問題の対策は重要」

2017年10月6日 イラク情勢 スペイン情勢 ドイツ連邦議会選 英EU離脱問題

本文の内容
  • ドイツ連邦議会選 メルケル首相が4選へ
  • 英EU離脱問題 第4回交渉会合が終了
  • イラク情勢 住民投票で「独立賛成」が92.73%
  • スペイン情勢 カタルーニャ投票所 約1300箇所を制圧

メルケル首相。議席は減ったものの、連立樹立はそれほど難しくない


ドイツ連邦議会下院選挙の投開票が、先月24日行われ、メルケル首相が率いる与党・キリスト教民主・社会同盟が246議席を獲得し、第1党を維持しました。メルケル氏の首相4選が確実になりました。一方、新興右派の「ドイツのための選択肢」が94議席を獲得し、初の国政進出で第3党に躍進。大幅に議席を減らした与党は今後、他の党との連立を模索することになりますが、安定した政治基盤が築けるかが焦点となります。

メルケル首相は、半年前あるいは1年前には今回の選挙に負けるかもしれないと言われていました。その状況考えると、今回の結果は「負けていない」「そこまでひどくない」と言えるでしょう。

「難民受け入れをドイツ国民は誇りに思うべき」とメルケル首相は発言しています。難民のピークは2016年で、今年になって落ち着いてきてはいます。それでも、このような発言をした上で再選されたというのは、すごいことだと思います。

今回の選挙で、与党は議席数を減らしてしまいましたが、メルケル首相にとっては連立の交渉はそれほど難しくないでしょう。社会民主党は嫌がると思いますが、その他の政党をいくつかかき集めてくれば、連立を成立させることは可能でしょう。

先月27日、ショイブレ財務相が退任を発表しました。ショイブレ氏と言えば、最も安定し信頼されている人物であり、ギリシャの破綻に際して改革を迫るなど、ユーロにとっても守護神のような存在でした。財務相を退任し、名誉職のポジションに就くのでしょうが、メルケル首相としては、空いた財務相のポストを利用しつつ連立の交渉材料にすることも可能でしょう。

また欧州の状況変化と言えば、英国のEU離脱を巡る第4回交渉会合が、先月25日~28日まで開かれました。交渉に先立ち、メイ首相が離脱後も2020年まではEU予算の分担金を支払うとともに、「EU加盟中にした約束を英国は守る」と表明しました。

これにより、EU側からも評価する声が上がりましたが、EU側と英国側が試算する精算金の差は大きく、協議の進展には時間がかかりそうです。とりあえず、少しだけ譲歩してきた、ということころでしょうが、まだまだ英国側とEUの主張には隔たりがあり、その距離は離れていると言わざるを得ません。


イラクのクルド自治区、スペインのカタルーニャ州など独立問題の対策は重要


イラクのクルド自治区で、イラクからの独立の是非を問う投票が先月25日行われ、開票の結果、独立賛成が92.73%に達したことがわかりました。自治政府は民意を示すのが目的で、直ちに独立はしないとしていますが、長年の悲願であるクルド人独立に向けた機運が一層高まる見通しです。

かつてオスマントルコが分割され、現在のトルコ、イラン、イラク、シリアになりました。この時、3000万人以上の国家を持たない最大の民族が誕生しました。トルコの約25%はクルド人で、イランは約17%、イラクは約27%になります。

今回独立しようとしているのは、イラクの中でも油田が豊富な地域です。IS対策として活躍した地域で、その勢いにのって独立まで発展しています。当然のことながら、イラクは独立に反対していますが、この地域が独立するとトルコにも大きな影響がでてきます。トルコ、イラン、イラク、シリアのいずれも反対しています。

今のところ、欧州、国連、米国なども独立に反対していますが、この問題はサウジアラビアがどのような態度に出るかによって、さらに炎上していく可能性があります。IS対策としての功績を認め、それに報いながらも、どのように対処していくのか、非常に重要な問題です。この独立運動を、もし世界全体で潰してしまったら、この地域のクルド人がIS化する可能性もあり、より大きな問題になってしまうでしょう。

同じく独立問題で揺れているのが、スペインです。スペイン北東部カタルーニャ自治州で先月30日、分離独立を問う住民投票が行われる投票所のうち、約1300箇所を警察当局が制圧し、住民の立ち入りを禁止しました。スペイン中央政府は、投票は憲法違反として実力行使も辞さない姿勢を示していましたが、カタルーニャ州政府は日本時間の1日夕方からの投票を実施し、混乱が広がる可能性があります。

おそらくカタルーニャの独立は、賛成多数で可決されます。カタルーニャは、すでに自治を確立している地域で、経済的には首都のマドリッドよりも大きくなっています。ピカソを始め、天才的な偉人を多数輩出している地域としても有名です。

スペインには、カタルーニャ以外にも、バスク、アンダルシア、ガリシアなど独立主張のある地域が存在しています。スペイン全体としてみると、特色の違う寄り合い所帯といった感が否めません。現状で言うと、カタルーニャ、バスクが大きな問題になっています。

今回のカタルーニャ独立の住民投票を、スペインは何とかして事前に押さえ込もうとしていますが、おそらく無理でしょう。また無理矢理押さえ込もうとすれば、バスク地方のようにテロが発生する可能性もあるので危険です。

スペインからカタルーニャ地方が独立すると、スペインの国力は1/5程度減少します。首都マドリッドとカタルーニャのバルセロナは、物理的には新幹線でたった2時間ほどの距離です。何とかうまく収まれば良いのですが、この問題は尾を引きそうです。イラクのクルド人問題と同様、世界にはこのような問題が、いまだにたくさん存在しています。



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※この記事は10月1日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、世界の独立問題の話題を中心にお届けいたしました。

カタルーニャの独立問題やイラクのクルド人問題と同様、
世界にはこのような問題がたくさん存在しています。

これらの問題から「国家とは何か」ということが問われ、
国民国家の定義や枠組みが揺さぶられるという意味で、
大きな変化が予感されます。

中央政府との対立というドメスティックな図式で捉えているようでは、
分離独立しても成功はおぼつきません。

独立した地域が世界からヒト、カネ、モノを
いかに誘致して繁栄するか、すなわち、
世界地図の中でいかに自分の魅力をプロットできるかという視点、
構想力を持てるかどうかが重要になってきます。


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