大前研一「ニュースの視点」Blog

KON691「ロシア情勢/日ロ関係 ~極東を重視するプーチン大統領の意図」

2017年9月16日 ロシア情勢 日ロ関係

本文の内容
  • ロシア情勢 危険度増すプーチン大統領の「奇妙な戦争」
  • 日ロ関係 北朝鮮は「深刻な脅威」で一致

ハイブリッド戦争を仕掛けるロシア


ロイターは2日、危険度増すプーチン大統領の「奇妙な戦争」と題する記事を掲載しました。ロシアと西側の直接衝突が悲惨な結果を招くことを双方が理解しているため、広範囲、かつ奇妙な形で対立するに至っていると紹介。

プーチン大統領が自国民に西側諸国への敵対心を煽るメッセージを発信し続けていることやハッキング、フェイクニュースの流布及び軍事演習などがその例とし、皮肉なことにこうしたことで世界は増々ロシアへの警戒を強めるだけとしています。

ロシアは軍事力だけでなく、フェイクニュース、サイバー戦争などを仕掛けています。ロシアとドイツの例を見ても、これは明らかです。メルケル首相も対応し、プーチン大統領に警告を発しています。

日本も、サイバー攻撃、ハイブリッド戦争に対する準備が十分できていないと言わざるを得ません。今回のことは日本にとって、この分野に対する能動的な準備をすると良いのではないか?という、ある意味「目覚まし」になるのではないかと思います。

今回の北朝鮮のミサイル発射で、中国では日本のJアラートシステムに対する評価が高まっています。わずか6分で国民に緊急事態を知らせることができるシステム。中国にはこのようなシステムはありません。もともと、他の目的で作られたJアラートシステムですが、今回はそれがタイミングよく稼働し、中国も驚いたという事態です。


極東を重視するプーチン大統領の意図


安倍首相は、ロシアのプーチン大統領と会談を行い、核ミサイル開発を続ける北朝鮮は国際社会にとって深刻な脅威であるとの認識で一致しました。また安倍首相はプーチン大統領に、講道館柔道の創始者、嘉納治五郎が残した「精力善用」との書を贈りました。鍛えた心身を社会のために有効に使うとの意味で、プーチン氏は「すてきなプレゼントだ」と謝意を述べたとのことです。

何のためにウラジオストクまで行ったのか?安倍首相は全く理解していません。ウラジオストクで行われたのは経済会議だったにもかかわらず、日本の随行記者は、政治部の記者ばかりでした。

「北朝鮮は深刻な脅威との認識で一致した」と報道されていましたが、ロシアにとっては脅威でもなんでもありません。ロシアが本気になって北朝鮮をひねろうと思えばいつでも可能でしょう。永田町の政治部の記者が、安倍首相に言われるがまま記事にしただけに過ぎません。

武道会館がウラジオストクに新設される予定で、その定礎には「人に勝つより自分に勝て」という嘉納治五郎氏の言葉が刻まれるそうです。私はロシアのニュースを直にチェックして知りましたが、これも日本では報道されていません。

そもそも今回の目的は、3回目の開催になる東方経済フォーラムでした。モンゴルの大統領、韓国の大統領と一緒に、もちろん安倍首相も参加していましたが、まるで話を聞いている様子ではありませんでした。

東方経済フォーラムの注目すべきポイントとしては、以下の様なものでした。
・山下泰裕氏の名を冠した柔道大会の開催
・間宮海峡、宗谷-サハリンの架橋
・香港の富豪 RONNY CHANG氏の参加
・60社以上の企業が参加し、5兆円の商談が締結
・日本の副総理にロシア担当を設けるべき
・北朝鮮に対してはロ中の提案しているロードマップに沿って対話すべき

ところが、実際には随行していたのは政治部のぶら下がり記者ばかりだったので、こうしたロシアの裏口が見えるところが何も報道されていません。そもそも、東方経済フォーラムだったことすらも正確に報道されていないのは、情けない限りです。

ロシアの8連邦管区の面積と人口を見ると、極東は圧倒的に人が足りていません。面積は620万平方キロメートルで日本の約15倍もあるにもかかわらず、人口は約620万人で横浜市の人口レベルに過ぎません。隣の中国東北3省の人口は、1億5,000万人です。ロシアとしては恐ろしくてしょうがないでしょう。中国と仲良く振舞っていますが、この人口差はロシアにとって大きな悩みの種です。もし北朝鮮が本当につぶれて、例えば2000万人の難民が押し寄せることになったとしたら、ロシアは歓迎するでしょう。

ロシア極東連邦管区の人口推移を見ると、年々減っているのが分かります。今ロシアではこの地域に移り住んでくれたら、1ヘクタールの土地を無償で提供するというキャンペーンを展開しています。モスクワに在住する人たちに働きかけていますが、ほとんど効果は見られません。プーチン大統領の最大の悩みは、アジアへの窓口です。それがハバロフスク、ウラジオストクなのです。

ロシアとの関係性では、このプーチン大統領の意図を理解することは極めて重要です。主目的であった東方経済フォーラムについてすら、まともに報道しない日本のマスコミは、全く話にならないレベルだと私は思います。




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※この記事は9月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?



今週は、日ロ関係の話題を中心にお届けいたしました。

ロシア東部への投資の促進を目的とした
国際会議『東方経済フォーラム』。
ロシア政府が国内の最重要地域と位置づける
極東への開発協力を各国に呼びかけています。

大前は記事中で、プーチン大統領の最大の悩みは、
アジアへの窓口で、それがハバロフスク、
ウラジオストクなのだと指摘していますが、
戦略を描く際には、市場のカギとなる場所を見つけることは
非常に重要です。

どの場所から進行して広げていくのか?
このようなストーリーを描くことが大切です。

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