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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON223 漁業用燃料費の補てんは安易な発想。水産業界の流通改革に着手せよ!~大前研一ニュースの視点~

2008年8月8日

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原油高対策 漁業用燃料費を補てん
政府・与党 総額745億円
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●「原油高 → 燃料コスト高 → 補てんすべし」
              という発想はあまりにも安直だ


 7月28日、政府・与党は新たな原油高対策として、
 漁業用燃料費の値上がり分の大半を事実上、
 直接的に補てんする方針を決定しました。


 補てんを含む緊急対策の総額は745億円。政府はこれまで
 価格補助政策は市場原理に反するとの立場でしたが、
 漁民の窮状に配慮して方針を変えたとのことです。


 先日、全国の漁業従業者の代表約3,000人が、政府・与党に
 対して燃料費の補てんなどを訴えるため、日比谷公園で
 全国漁民大会を開催しました。


 そこには漁業関連の陣笠議員が約100人も集まり、
 その中には「1兆円の補てんを確保する」
 という趣旨の発言した議員もいたようです。


 何とも現実離れした意見だと言わざるを得ませんが、
 そもそも、私はこうした集まり自体が「うそ臭い」
 という印象を持っています。


 なぜなら、必ずしも全ての漁業従事者が本当の意味で
 「漁業に出ている」とは限らないからです。


 まず、日本の漁業の約半分は、漁港ではなく貨物港に
 届けられたもので成り立っているという事実を見落としては
 いけません。


 私たちが食べる魚の約半分は、漁業としてではなく
 貨物としての扱われているものであるということを
 認識すべきです。


 また、漁獲高について見てみると、約四分の一は「養殖」に
 よるものです。


 養殖であれば燃料を使って漁業に「出ていく」わけでは
 ありませんから、今回の焦点となっている原油高による
 燃料費高騰の重大な影響を受けるとは考えにくいと思います。


 さらに、漁獲高の実態として次のようなことを知っておくべき
 です。それは、例えば漁獲高が大きいことで有名な青森の
 八戸漁港では、ロシア人が漁獲したものを洋上交換している
 ということです。


 また、日本海側で漁獲高が大きい鳥取・境港なども、
 北朝鮮の船と洋上交換しているのは間違いないと思います。


 そう考えなければ、日本海側全体ではなく、一部の漁港だけが
 その漁獲高を増やしているという理由を説明できないからです。


 結局、日本の漁民の中で「海」を漁場として本物の漁業を
 営む人の割合はどのくらいなのか、またその漁獲高が
 どのくらいになるのか、という点を把握していなければ
 今回の議論は意味がありません。


 漁民が窮状に瀕しているからといって、
 燃料の問題と考えてしまうのは短絡的だと言わざるを
 得ないと思います。


●流通改革に着手して古い流通制度を壊すことが第一歩


 燃料費対策が漁業の実態に合うかどうかという話の前に、
 私としては魚の値段が上がるというなら、別段対策をする必要
 もなく、そのまま市場メカニズムを働かせて、
 魚の値段を上げてしまえば良いと考えています。


 というのは、漁業には流通改革をして改善できることが
 山のようにあるのですが、短絡的に補てんという形を
 とってしまうと、古い流通制度が残ってしまい、
 流通改革が一向に進まないからです。


 漁業の流通問題として最も大きな課題は、漁港から私たち
 消費者に届くまでの流通中間マージンが大きすぎる点です。


 例えば、鯛の浜値は以前の1万円台の価格から今では1000円台
 にまで割り込んでいます。すなわち、漁民が受け取る金額は
 1000円台ということです。


 しかし、これが私たち消費者の手元に届く頃には、4000円台
 の金額に跳ね上がっています。最終価格の約75%に当たる
 3000円分は、漁港より外側にある流通マージンとして加算
 されているというわけです。


 中国産のふぐなども同様に、漁港では1キロ1000円台で
 買えるものが、消費者の手元に届く頃には1キロ1万円ほどに
 なっており流通中間マージンが大部分を占めている状態です。


 燃料費を補てんする前に、このような流通上の問題を
 解決するべきだと私は思います。


 流通改革を中心に漁業改革を行い、それでも燃料費が高い
 というならダイレクトに私たち消費者がそれを負担する
 仕組みにするべきです。


 「あっちを上げたら、こっちもそっちも・・・」というように、
 燃料費とは本来関係がないような流通中間マージンも
 値上がりし、最終的に流通の最終地点にいる消費者が割を
 食うという構造そのものを作り変える必要があると思います。


 また安易な補てんなどは一切せずに流通改革を前提に考えれば、
 漁民も少しは工夫をして、直接的に一般消費者に魚を届ける
 方法などを模索し始めるのではないかと思います。


 実際、コメなどは流通改革の一環として産地直送などが
 盛んになってきているので、漁業においても
 不可能ではないと思います。


 ヨーロッパのように流通機構に問題はなく、本当に漁民
 が苦しい状況にあるというなら助けるべきだと思いますし、
 そうした事情があれば今回のような直接的な補てんも
 良いことだと思います。


 しかし、日本の漁業の現状から言えば、補てんの前に
 漁業全体の実態やその構造上の本質的な問題を見極め、
 その改善に着手すべきです。


 「原油高=燃料費の上昇」という表層上の現象のみを見て、
 「燃料費の補てん」という対処を施してしまっていては、
 結局古い制度は残ったままで、本質的な問題が解決されず、
 元の木阿弥状態です。


 表面に見える問題らしき事象に惑わされず、本質的な問題を
 見極めることの重要性は、いくら強調しても足らないほどです。
 問題解決の最も重要な基本ですから、
 ぜひ身につけてもらいたいと思います。


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