- 本文の内容
-
- 日欧EPA 日欧EPAで大枠合意
- 工学系教育 工学系教育の見直しを提言
EPAで関税が撤廃されてもワインにはさほど影響なし
安倍首相は6日、ベルギーのブリュッセルでEUのトゥスク大統領とユンケル欧州委員長と会談し、日本とEUの経済連携協定(EPA)の締結で大枠合意しました。EU側が日本車にかける関税を協定発行後、7年かけて撤廃する一方、日本はEU産チーズで低税率の輸入枠を数万トン分新設することなどで折り合ったもので、日欧間の貿易が活発になり双方のGDP押し上げ効果などが期待されます。
EUの主な貿易相手をみると、輸出相手として日本は6位でロシア以下。輸入相手としても6位でトルコの下になり、それほど大きな立場ではありません。日本側の輸入品を見ると、医薬品が断トツで、自動車、有機化合物、原動機、肉類などが続きます。
EPAの報道でワインへの影響が取り上げられることがありますが、ワインの輸入量はそれほど大きくはありません。また、実は関税も決して高くありません。私はワインを個人で1ダース、2ダースと輸入することがありますが、ワインの関税は125円/リッターに過ぎません。例えば現地で5万円の高級ワインを輸入しても、関税は125円/リッターなのであってないようなレベルです。
ワインの価格が日本で高騰してしまうのは、関税ではなく、輸入代理店・総代理店と呼ばれるところが、価格を釣り上げているからです。私が好きなワインに、ルーチャのブルネッロ・ディ・モンタルチーノというものがあります。現地価格19ユーロで、輸入して関税を払っても3000円を超えることはありません。このワインが日本の通販サイトでは18,000円で売られていて、レストランのメニューでは6万円になっています。ワインに関して言えば、問題の本質は税金ではありません。
その他の食べ物を見ると、パスタもそれほど影響はないでしょう。一方、肉類は現在の関税が482円/キロですから、これが撤廃されると大きなインパクトがあります。スペインのイベリコ豚などが有名ですが、その他にもハンガリーやポーランドなど
東ヨーロッパ系統の肉類には期待できると思います。チーズは品種によって大きく条件が異なりますが、安い枠を新設してくれるのは日本としてはありがたいでしょう。
欧州と日本のEPA協定にカリカリしているのが米国です。これによって、日本における米国の農産物のポジションが落ち込むことは間違いありません。TPPから撤退したものの、その後何も手を打てていないトランプ大統領も、この点の指摘を受けたのでしょう。あわてて貿易問題を持ち出し始めたのは、このためだと私は見ています。
関税以外の合意として、日本地方自治体に欧州企業が入札できるなど、今後何か大きな違いを生み出すかもしれません。また、相互の地理的表示(GI)保護制度を認め合うことになったのは非常に良いことだと思います。
大学と大学院の一体化など、愚の骨頂。大学院は専門性を高める場所
文部科学省の有識者会議は、先月27日、工学系教育の見直しに関する提言をまとめました。大学工学部の4年と大学院修士課程の2年で一体的なカリキュラムを組む学部修士6年一貫制の導入を柱とするもので、AIやビッグデータなど技術革新が目覚ましい一方、従来の工学系教育は分野ごとの縦割りが顕著で時代の波に対応できない、との声が上がっていました。
これは全く最悪の政策です。このような判断をするとは、とても有識者と呼ぶべきではないと私は思います。重要なのは、学部と修士課程の一体化ではなく、高校から工学系の授業を始めることです。日本の工業高校では一部授業に取り入れていますが、普通高校でも工学部的な授業をはじめるべきだと思います。その上で、高校と大学で連携をとるのも良いでしょう。
しかし大学院というのは、全く別で考えるべきです。大学院の目的は、修士課程、そして博士課程を通じて専門性を高めていくことです。例えば、米国のMITには全米・全世界の工学部から優秀な学生が集まり、大学院では彼らがさらに専門性を磨きます。この「専門性」こそ、大学院が持つ優位性であり重要な要素です。
学部と大学院の一貫性では、このような専門性を打ち出すことはできません。専門性は博士課程とつながっています。博士課程の学生が修士課程の学生に教えてくれる、あるいはさらに高い専門性を持つ世界的権威の先生が直接教えてくれる環境。この専門性を持つのは大学院であり、大学ではこのようなことは無理です。工学部と修士過程を一緒にしても、全く専門性は生まれず、どちらにとっても良いことはありません。
どのような有識者会議だったのか私は知りませんが、このような提言をするというのは世界の現状を知らないのでしょう。全ての工学部は、最高の大学院に行くことを目的として勉強するべきです。安易に一緒にしても、緩い環境を生み出し、ほとんど役に立たない人間を作り出すだけになってしまう、と私は思います。
---
※この記事は7月9日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、日欧EPAの話題を中心にお届けいたしました。
大前は記事中で、関税撤廃による影響について触れていますが、
PEST分析のようなマクロ環境分析は戦略立案において、非常に重要です。
自社で提供している製品、サービスや目の前の顧客だけをみていると
その市場の外側で何が起こっているのかが、見えなくなってしまいます。
環境の変化や事業活動に影響を与える要因を探り、
現在の環境とともに将来の環境に基づいて戦略を立案することが大切です。
そのためには、戦略家のマインドとして、
PESTに対する情報感度を常に高くすることです。
特にテクノロジーに関しては、重要かつスピードが速いため、
感度を高くすることが必要です。
▼大前研一特別講義つき!新講座『現代版 企業参謀』
結果を出すための「戦略的思考」を体系的に学ぶ
2017年8月開講のお申込締切りは【2017年7月25日(火)15時】まで
http://tr.webantenna.info/rd?waad=wjUHO23N&ga=WAAAAk-1