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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON219 アジアのGDPトップの座を明け渡した日本、「貸席経済」を学べ! ~大前研一ニュースの視点~

2008年7月11日

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1人当たりGDPでシンガポールが日本抜く
シンガポール:3万5,000ドル超え 日本:3万4300ドル
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●シンガポールや北欧諸国などの経済成長に、
              日本は置いていかれるばかり


 国際通貨基金(IMF)の調査で、2007年のシンガポールの
 1人当たり国内総生産(GDP)が3万5000ドルを超え、
 日本の約3万4300ドルを抜くことが明らかになりました。


 資源に乏しいシンガポールは積極的な外資・外国人の誘致策で
 経済の活性化に取り組んでおり、
 市場開放が後手に回った日本との違いが鮮明になった格好です。


 シンガポールは、外資系企業を呼び込み、その力を借りながら
 経済発展するという「貸席経済」で大きく経済成長を
 遂げてきた、まさに私が提唱する「ボーダレス経済」の
 申し子のような国家です。


 税率で見ても、そこには貸席経済を睨んだ明確な意図が
 感じられます。


 法人税率18%、所得税の最高税率が20%、相続税はなし
 という具合になっていて、世界からお金、人、仕事、情報、
 企業などのあらゆるものが集まりやすい環境が
 整えられていると言えます。


 私がシンガポールの国家アドバイザーを務めていた
 70年代後半の頃は、ちょうど日本の1人当たりGDPが1万ドルを
 突破したという時代でした。


 その頃、シンガポールの1人当たりGDPは約2000ドルでしたから、
 今回約5倍の差がひっくり返って、
 日本が抜かれてしまったというわけです。


 世界とアジアの主要国の1人当たりGDPを見てみると、


  1位:ルクセンブルグ(10万4,673ドル)
  2位:ノルウェイ(8万3,922ドル)
  3位:アイスランド(6万3,830ドル)
  4位:アイルランド(5万9,924ドル)
  5位:スイス(5万8,084ドル)
  6位:デンマーク(5万7,261ドル)
  7位:スウェーデン(4万9,655ドル)


 と続いています。


※「世界とアジアの主要国の1人当たりGDP」チャートを見る
→ 


 アイスランド、アイルランド、スイス、デンマーク、
 スウェーデンといった北欧の小さな国が非常に
 強くなっているのが分かります。


 通貨による影響もありますが、これらの国が
 日本のGDP(3万4,312ドル)をはるかに凌いでいるのは、
 その実力として認めるべきだと私は思います。


 そして、今回シンガポールのGDP(3万5,163ドル)が
 日本を抜いたことで、アジアのトップの座を明け渡すことに
 なりました。


 日本の1人当たりGDPは、戦後間もない頃はフィリピンより
 劣っていましたが、その後の目覚しい経済成長のおかげで、
 ブルネイなどの原油国を除けば40数年トップを
 維持し続けていました。


 その意味を日本はしっかりと受け止めて
 考えるべきだと思います。


 このままで行けば、シンガポールに留まらず、
 香港(2万9,650ドル)にも追い抜かれる日が近いのではないか
 と心配になります。


 さらには、韓国(1万9,751ドル)との差は、
 現在1万5,000ドルほどありますが、ウォン高に推移すれば
 半分くらいは縮まってしまいますから、
 こちらも安心はできません。


●日本の問題点は自力解決のみの鎖国経済政策にある。
                   貸席経済を学べ。


 シンガポールでは日本の課長クラスのビジネスパーソンが、
 スイミングプール付きのマンションに住んでいるのも
 珍しくありません。


 私がかつてシンガポールの国家アドバイザーをしていた頃、
 シンガポールは日本に比べて貧しい割には、
 ちょっと贅沢な生活をしているなと思っていました。


 しかし、シンガポールに1人当たりGDPで抜かれた今では、
 充実した住環境も実力の差かと思わざるを得ません。


 こうしたシンガポールの繁栄の要因は、自力だけに頼った
 経済ではなく、開放的な経済政策を打ち出したことです。


 私が20数年来提唱しているボーダレス経済で言うところの
 「貸席経済」の非常に良い事例です。規制を撤廃し、
 世界の力を借りて、経済を発展させていくというモデルです。


 日本がシンガポールに遅れをとる理由など全くないと、
 私は思います。しかし、実際にはこうした「貸席経済」とは
 正反対の誤った政策を展開しているために、
 今回のような事態を招いてしまうのです。


 第2の鎖国とも言える閉鎖的な経済政策を進めている
 日本の官僚や政治家が、シンガポールに1人当たりGDPで
 抜かれたこと対しても、けろっとしてショックを受けた
 様子がないのも、私にとっては信じられない状況です。


 「国家の世界経済に対する見方の違い」「政策上の違い」が、
 今のシンガポールと日本を分かつ大きな違いとなって
 現れているのだということを、官僚・政治家、そして国民も
 強く認識するべきだと私は思います。


 そして、政治家はもっとこうした他国の事例を勉強するべきです。


 シンガポール、アイスランド、アイルランド、フィンランドなど、
 こうした国々がなぜ最近活躍しているのか、その理由を
 しっかりと学んでいる日本の政治家は殆どいないと私は思います。


 かれこれ十数年前になりますが、日本が1人当たりGDPで
 アメリカを抜いたという過去の栄光のイメージのまま
 思考停止状態に陥ってしまっている気がします。


 世界最大の貸席経済の成功例は、紛れもなく米国です。
 資本や人材を輸入し、それを活用することで経済発展を
 遂げています。


 そして、アジアの中で貸席経済を上手に活用したのが
 今回日本を1人当たりGDPで追い抜いたシンガポールであり、
 さらにそのシンガポールの超巨大バージョンとも言えるのが
 中国です。


 日本は金融危機に際して、国民に対してツケを押し付ける
 ことで解決しようとしました。


 それに対して、中国は外資の一流銀行を招き入れました。
 今でも中国の銀行のほとんどは一流の外資系銀行の資本が
 10%程度入っていて、彼らの経営参画を受け入れています。


 世界に解決策を求めるのか、国民や子孫に解決策を求めるのか。


 この日本と中国の例を見ても、「解決策をどこに求めるのか?」
 という根本的なアプローチに大きな違いがあるということに
 気づくべきです。


 この点について、私は20数年来、ボーダレス経済の中で
 主張していますが、皮肉なことに一向に理解してくれないのが
 日本という国です。


 もっと世界に目を向けて、その事例から学び、
 積極的に勉強する姿勢を身につけてもらいたいと
 強く願っています。


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