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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON218 北朝鮮核問題:日本政府は6者協議から撤収してでも強い姿勢を貫け! ~大前研一ニュースの視点~

2008年7月4日

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北朝鮮核問題 北朝鮮が核計画申告 米はテロ国家指定解除へ
核実験プルトニウム「2キロ」申告予想下回る
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●拉致問題への言及と核兵器の申告は、
            日本政府として絶対に主張すべき
 
 6月26日、北朝鮮は6者協議の合意で義務付けられていた
 核計画の申告を議長国の中国に提出しました。


 米国政府は同日、ブッシュ大統領が北朝鮮に対する
 テロ支援国家指定の解除を議会に通告したと発表しました。


 また、北朝鮮が6者協議に提出した核計画の申告で、2006年10月
 に行った核実験で使用したプルトニウムの量を2キロとしている
 ことがわかりました。


 この報道を聞いて私は、大きく2つの問題があると感じました。
 1つは、米国がテロ支援国家指定の解除にあたって「拉致」に
 言及していないという点を日本政府が追及せずに、
 そのまま受け入れようとしていることです。


 拉致というのはテロ行為そのものです。
 拉致問題を解決しないまま、テロ支援国家指定を解除するのは、
 米国のロジックとしては通用しても、日本政府としてこれを
 認めるわけにはいかないはずです。


 私自身は、北朝鮮問題としてより重要なのは核武装問題であり、
 拉致問題は別途解決をしていくべきだと思っています。
 これらを同列に扱うべきではないと考えています。


 しかし、これまで日本政府は、大物議員である中山恭子
 首相補佐官を拉致問題担当とするなど、拉致問題を前面に
 押し出して北朝鮮問題を論じてきましたし、
 国民もそのような政府の姿勢を見てきたはずです。


 それにもかかわらず、拉致問題を棚上げにしておいて、
 とりあえずテロ支援国家指定の解除という米国の指針に
 追従するのは、これまでの国民感情を無視するという観点からも、
 日本政府の対応として間違っていると私は思います。


 もう1つの問題は、北朝鮮が申告すべきに内容「核兵器」が
 含まれていない点を認めてしまっていることです。


 今回の6者協議のポイントは「Nuclear Free」というものですが、
 いくら原子炉について申告があっても、「核兵器については
 機密情報なので申告しません」では、全くお話になりません。


 北朝鮮が核兵器を持っている場合に、その核兵器による被害を
 受ける可能性が最も高いのは、他ならない日本です。


 さすがに、米国本土に北朝鮮の核兵器が到達するのは難しい
 でしょう。また、北朝鮮の近隣諸国では、中国・ロシアは
 友好国ですし、韓国は最近になっていわゆる北風政策を
 緩和させてきています。


 北朝鮮との外交関係を考えると、拉致問題が未解決のまま
 残されているなど、日本が最も危険な立場にあるのは
 間違いありません。


 この点を認識して、日本政府としては北朝鮮の核兵器の申告を
 強く求めるべきだと私は思います。


●米ブッシュ大統領の思惑。
     日本は6者協議から撤収してでも強い姿勢を貫くべき


 米ブッシュ大統領としては、在任中の功績の1つになりますから、
 今回の北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除を
 進めたいという意向があるのだと思います。


 しかし、今回の議論が不十分なのは明らかです。
 北朝鮮が6者協議に提出した申告書をしっかりと読み込んで
 改めて内容を吟味すべきだと思います。


 実際に北朝鮮がテロ支援国家指定から解除されるためには、
 米国議会からの承認が必要です。議会が反対をすれば、
 米ブッシュ大統領としても今回の北朝鮮テロ国家指定解除を
 そのまま押し進めるのは難しいというのが実態でしょう。


 ただ、こうした米国内の動きはともかくとして、
 日本は毅然として反対の態度を示す必要があると私は思います。


 たとえ、米国の議会の承認が得られ、米国が北朝鮮を
 テロ支援国家指定から外したとしても、日本としては
 「拉致はテロそのものだから認められない」
 「核の所在を公開しない限り認められない」
 という強い姿勢を貫くべきです。


 例えば、今回北朝鮮が2006年10月に行った核実験で使用した
 プルトニウムの量を「2キロ」と発表している点についても、
 もっと具体的な申告を強く迫って然るべきです。


 そもそも、北朝鮮の発表はかなり疑わしい内容だと思います。


 私も元原子炉の設計者として、この手の問題に関する専門家と
 言えると思いますが、わずか2キロのプルトニウム量では
 モックアップを作るのがせいぜいで、本当に核爆発を
 起こすことができるのか?疑問を感じざるを得ません。


 この点については、他の専門家でも
 「たった2キロで起爆できるのか」と疑問を感じる人もいれば、 
 「予想以上に核兵器の小型化技術が進んでいるのかも知れない」
 という憶測をしている人もいるようです。


 北朝鮮の本当の思惑がどのような点にあるのかわからない部分も、
 日本政府としては危機感を感じるべきだと思います。


 そして、いずれにせよ、北朝鮮は寧辺でプルトニウムを
 生産しており、約30キロの量のプルトニウムを抽出したことは
 判明しているのですから、ここを見逃さずに追及するべき
 でしょう。


 プルトニウム5キロで1発の核爆弾と見積もっても、総量30キロ
 ならば5発~6発の核爆弾を作ることが可能な数字です。


 その30キロのプルトニウムをどうしたのか、またはそこから
 核爆弾を作ったとしたらそれをどこに保有しているのか。


 日本政府として北朝鮮に対して、
 これらの点を具体的に申告するよう求めるべきです。


 その結果、6者協議から撤収するのも「アリ」だと私は思います。


 先ほども述べたように米国にしろ、中国・ロシア・韓国にしろ、
 いずれの国も今の日本ほどには北朝鮮の核問題を深刻に
 受け止める状況にはありません。


 日本だけが特別な状況にあるのです。このまま6者協議という
 枠組みの中で、他国の意見に流されてしまうなら、
 むしろ6者協議から外れた方が良いとさえ感じます。


 その方が国民も緊張感を持つでしょうし、日本政府も
 自分自身の頭で北朝鮮問題について
 真剣に考えられるようになるでしょう。


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