大前研一「ニュースの視点」Blog

KON673「LVMH・米医療機器大手・米食品大手 ~LVMHとナイキの買収戦略、ブランド戦略の違いとは?」

2017年5月12日 LVMH 米医療機器大手 米食品大手

本文の内容
  • LVMH アルノー家がディオールを完全子会社化
  • 米医療機器大手 CRバードを買収
  • 米食品大手 アドバンスピエールを買収

LVMHとナイキの買収戦略、ブランド戦略の違いとは?


高級ブランド世界最大手の仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)は先月25日、同社を実質的に支配するアルノー家のグループ会社がクリスチャン・ディオール社を完全子会社にすると発表しました。現在74%を出資していますが、残りを121億ユーロ(約1兆4520億円)で取得するとのこと。ディオール事業をLVMHに集約し、総合的なブランド戦略を展開できるようにする狙いです。

LVMHは世界最大の高級ブランドのコングロマリットで、次のようなブランドを抱えています。

・ワイン・スピリッツ:ドン・ペリニヨン、モエ・エ・シャンドン、ヘネシー等
・ファッション・レザーグッズ:ルイ・ヴィトン、ロエベ、ジバンシィ、リモア等
・パフューム・コスメティクス:ゲラン、アクア・ディ・パルマ等
・ウォッチ・ジュエリー:ショーメ、タグ・ホイヤー、ウブロ、
ブルガリ、フレッドリテイリングの、ル・ボン・マルシェ、DFS等

ハイエンドブランドに集中しているのが特徴です。空港内にある免税店の半分以上は、このコングロマリットが保有するブランドで占められていることも珍しくありません。買収に次ぐ買収で、非常に効率が良いブランド構成を確立していると思います。

かつて私がナイキの社外取締役だったとき、LVMH社を訪問して話を聞かせてもらったことがあります。LVMH社は買収にあたって、経理業務などを整理し改善し、またグループ内の複数のブランドでまとめて広告出稿して有利に交渉を進めるなど、グループとしての効果を最大限に活用する一方、買収先の元々のクリエイティブやデザイナーはいじらない、とのことでした。この両軸が、LVMHが買収を成功させているコツだと私は思います。

逆に、私が社外取締役を務めていたナイキは、買収しても全てをナイキ流にしてしまう、という方法でした。コールハーンを買収したあとの展開も、まさに典型的でした。ナイキの買収戦略として、必ずしも成功したとは言えません。

ナイキという会社全体で見ると成長をしていて問題はありませんでしたが、結局、すべてを「自分化=ナイキ化」してしまうなら、何のための買収なのか?ということになります。ユニクロも似たような課題を抱えています。ユニクロと自社で作ったGUブランドは上手くいっていますが、買収したブランドはそれほど成功していません。

LVMHは、「変えるべきところ」「変えてはいけないところ」を明確にしています。グローバルブランドを買う以上、その価値はブランドやデザインにあるのですから、そこはいじるべき箇所ではない、と私は思います。


米国の医療用品業界、食品業界で進むトップ企業による買収


米医療用品のベクトン・ディッキンソンは先月23日、同業の米CRバードを240億ドル(約2兆6400億円)で買収すると発表しました。バードは血管疾患や感染予防、外科手術などの専門分野に強みを持ち、これによりベクトンは事業領域を拡大し海外展開も模索する考えです。

ベクトン・ディッキンソンは医療用品業界で、圧倒的な強さを見せています。インスリンの注射器やヒト白血球細胞群を自動で分離解析するフローサイトメトリーシステムで世界トップシェアを誇り、売上高が約1兆5000億円、営業利益も約1500億円。時価総額は約4兆5000億円、従業員約4万5000人の巨大な企業です。

今回買収したCRバードは、注射器や輸血用機材などを扱っていて、売上高が約4000億円です。この売上高からすると、買収金額の約2兆円は高すぎるとも感じますが、CRバードが血管、泌尿器、主要や外科専門領域で製品を提供することで、医療用品、検査機器の会社として、さらに立場を強くすることができます。

知名度を考えると、ハード部門は残りつつも、ブランドはディッキンソンで統一されると思います。従業員も約6万人規模になり、世界のトップ企業は、このレベルまで達しています。


米精肉最大手のタイソン・フーズは25日、調理済み食品製造のアドバンスピエール・フーズを32億(約3552億円)ドルの現金で買収すると発表しました。成長力のある調理済み食品を傘下に収め、収益の柱に育てるとともに、冷凍デザートなど周辺事業の売却し、食肉や食肉総菜関連に注力する考えとのことです。

米国の食肉加工会社の売上高を見ると、タイソン・フーズがトップで、アメリカンフーズ、カーギルのミート部門がその後に続きます。最大手のタイソンがアドバンスピエールを買収し、もっと大きくなります。

食品業界で支配力が強まると、どこかのタイミングで値上げに踏み切ります。そういう意味では対抗できる企業があると良いのですが、タイソン・フーズは、これまでにも買収を重ねてきて、巨大化してきました。世界的に大きな影響力を持ち始めている一例だと思います。


---
※この記事は5月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?



今週は、LVMHとナイキの買収戦略、ブランド戦略の話題をお届けしました。

世界最大の高級ブランドのコングロマリットとなっているLVMH。

M&A成功の要素の一つとして、まず、「戦略の適合性」が挙げられます。

LVMHが、「変えるべきところ」「変えてはいけないところ」を明確に
しているように、「そもそも自社の戦略が明確か」
「自社の戦略と適合しているか」という点が評価のポイントとなります。

また、同じように見える事業でも、事業の本質は異なってきます。
フレームワークを駆使して事業構造の分析を効率的に行い、
その事業の価値を生み出す源泉を深く理解する必要があります。



▼『ブランディングデザイン講座』2017年7月開講クラス 募集中
ブランディングデザイン実践5企業の経営者対談によるケース&スタディー
http://tr.webantenna.info/rd?waad=Yk8DcWRp&ga=WAAAAk-1

問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点