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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON217 東シナ海ガス田問題:「大人の対応」として成功した日本の外交交渉 ~大前研一ニュースの視点~

2008年6月27日

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東シナ海ガス田問題 共同開発で合意
白樺ガス田に日本法人が出資
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●今回の東シナ海ガス田問題は、「大人の対応」として成功


 6月18日、日中両政府は日中東シナ海のガス田の共同開発で
 合意しました。


 中国側が先行開発している白樺(中国名・春暁ガス田)に
 日本法人が出資するほか、日本側が主張する日中中間線を
 またぐ北部の海域で新たに共同開発に着手する計画
 だということです。


 「主権を日本が認めた」とする中国側に対し、
 日本側は「日本が中国の主権を認めたという事実はない」と
 反論している点が若干問題として残っていますが、


 基本的には非常に現実的で大人としての対応による1つの
 「解」を見出したという点で、今回の対応を評価できると
 私は思います。


 また今回の対応では、日本が珍しく上手に外交交渉をした
 と感じました。白樺がある場所は、明らかに日本が
 主張している境界線の外側に位置しています。


 普通に考えれば日本が権利を主張するのは難しいところであり、
 日本が不利です。


 ところが、白樺でガスを抜き取れば、境界線内側の
 日本領土内のガスも抜き取られることになるという、
 半ば強引な論理を主張し、それを押し通したのです。


 客観的に見れば、「いちゃもん」に近いレベルですが、
 資本を入れることで資本比率に応じて、油やガスを引き取る
 という段階まで交渉を進めることに成功したのは、
 上出来だったと思います。


 今回の中国との東シナ海の境界線問題は、日本が抱えている
 他の領有権問題の対応時にも応用できる、優れた事例になる
 と私は考えています。


 韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題、ロシアとの
 北方四島問題など、こうした領有権を巡る問題は歴史を
 紐解けば、それぞれの国に言い分があるものです。


 ロシアの北方四島については、戦争終結後にソ連が四島を
 占領した事実が明確ですから日本が返還を主張できるでしょう。


 しかし、竹島や尖閣諸島については、どの書物の内容を
 拠り所とするかによってどの国に帰属するかの判断は
 分かれてしまいます。


 その書物の時代によっても違いますし、それぞれの国ごと
 にも異なる内容が記されていることが多いからです。


 ですから、まともに境界線だけに焦点を当てて論じていても
 永遠に決着などつくはずがないのです。


 それ故、領土問題で決着がつかない場合には、歴史的には
 戦争が引き起こされることになっていたのですが、
 竹島や尖閣諸島が戦争をするほどの価値があるか、
 私は甚だ疑問に感じます。


 永遠に決着しない問題にあれこれと言い合っていても
 意味がありませんから、今回のようにお金で解決する
 というのが、紛争地域における「大人の解決策」だと
 私は思います。


 海洋水産物については、細かいことは言わずに妥協すれば
 よいでしょう。今でもマグロ漁船は台湾に3割くらい
 依存している状況です。


 エネルギー資源については、今回のスキームが一番だと
 思います。相手を出し抜くようなことはせず、
 事前に取り決めをしてお互いにお金を出し合って、
 利益を折半するという方法です。


●竹島、尖閣諸島、北方四島の問題についても、
             首尾一貫した態度をとるべき


 こうした領有権問題の大人の解決策を実行する上で、
 日本としては領有問題全体について首尾一貫した
 態度と考え方を示していくことが大切だと私は思います。


 台湾は、尖閣諸島を日本が実効支配していることを
 認めています。その上で、自分たちの領土を主張し、
 経済的には協力体制でいきましょうと
 日本に呼びかけているのです。


 これが先ほども言ったように「大人の解決策」です。
 そして、日本はこの台湾の姿勢を受け入れています。


 しかし一方で、日本は韓国との竹島問題については、
 竹島を韓国が実効支配しているにも関わらず、
 それを認めようとはしていません。


 台湾との関係では実効支配を拠り所として自らの権利を
 主張する一方、韓国との関係では実効支配をしていても
 韓国の権利は認めないというのでは、何でも自分のモノだと
 主張するだけで一貫性がありません。


 国際社会の中で世界の国々に認められるような姿勢を
 示していこうとするなら、こうした自己矛盾を起こすのは
 問題だと私は思います。


 意固地にならず、一貫した姿勢を貫きつつ、最もお互いにとって
 効果的な関係を築いていくのが、「大人の対応」でしょう。


 中国や韓国との漁業権問題にしたところで、魚が獲れた方から
 お金で買えば済む話です。そもそも魚などは、人間が定めた
 領有権を無視して泳いでいるのだから、
 そんなことで争うというのは馬鹿馬鹿しいと思います。


 北方領土については、ロシアが二島返還すると言っている
 のですから、素直に返してもらえばいいだけです。


 その上で、平和条約を締結して、残りの二島についても
 継続して協議していくようにすればいいのです。


 「四島同時返還でなくては意味が無い」と力んだところで
 何も物事は進展しません。その間にも、平和条約を締結した
 ロシアと他に協力してできることを進めていくべきだと思います。


 継続して二島返還を協議していく際には、ロシアが実効支配
 しているという点を失念してはいけないでしょう。


 ロシアの実効支配を認めた上で歴史的な意味から、
 領土返還について考えてくれるように交渉するべきです。
 そうすれば、ロシア側も返還のメリット・デメリットを
 比較検討した上で対応してくれるはずだと思います。


 ただ、現実的な問題として、本籍を北方領土に置きながらも
 北海道等で暮らしている元島民たちは、かなり高齢な人が
 多いので、


 自由に北方領土に帰えることができるようになっても、
 どのくらいの割合の人たちが帰りたいという意思を示すのか
 分かりません。


 このあたりの現状を把握することを忘れてはいけないでしょう。


 決着がつかない領有権問題を机上で論じているだけでは
 意味がありません。


 実態を認識した上で、国際社会で通じる「大人の解決策・
 大人の対応」を通して諸外国との間に接点を見つけ、
 両国にメリットある関係性を築いてもらいたいと思います。


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