- 本文の内容
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- 米入国審査 審査で個人情報の提供要求へ
- 米個人情報問題 米ツイッターへの個人情報開示命令取り下げ
- 米トランプ政権 スティーブン・バノン氏をNSC常任委員から除外
米国に大打撃を与えかねないトランプ大統領の軽率なロビー活動
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは4日、トランプ政権が米国への渡航希望者に対し、携帯電話に登録された連絡先やソーシャルメディアのパスワードの提出を義務付けることを検討していると報じました。短期滞在者のほか、「ビザ免除プログラム」に参加している日本や英国、豪州などの同盟国を含む38カ国・地域に対しても適用される見通しとのことです。
トランプ大統領は、「根拠もなく何かを言ってみては、引っ込める」というのを繰り返していますが、これも同様でしょう。実はこの事態はロビー活動を背景としています。
米国は、中東や北アフリカの8カ国から米国に向かう直行便で、携帯電話よりも大型のタブレット端末やパソコンなどの持ち込みの禁止を発表しています。不思議なのは、9つの航空会社が運営する10の空港から出発する便を対象とする一方、「米国の航空会社は許可されている」ということです。なぜ、このようなことになっているのか?
ドバイのエミレーツ航空などは国から補助金をもらって、大量にエアバスなどを購入しています。米国からすれば、これはロビー活動に他ならないという見解です。そのような制度がない米国の航空各社は、競争環境を阻害すると主張しています。このような背景のもと、米国政府はエミレーツ航空などからの米国直行便でパソコンの持ち込みを禁止しました。
トランプ大統領のこれまでの行動を見ていると、ほぼ全てがロビー活動です。フォードが「日本市場は不公平だ」と主張すれば、証拠も根拠もないままにオウム返しに、「日本は不公平だ」と発言します。今回の事態も、トランプ大統領のロビー活動の一環だったということです。
ところがロビー活動においても、先を見据えずにやってしまうのがトランプ大統領の弱いところです。8カ国からの直行便で携帯電話よりも大型のタブレット端末やパソコンなどの持ち込みを禁止した結果、今、米国の旅行業界はパニックに陥っています。それはコンベンション業界の落ち込みです。これまで、米国では学会や様々な業界の国際会議が数多く開催されていました。そのうえ、7カ国(当初。後にイラクを除外し6カ国)から米国への入国制限まで課されるとなると、現実的に国際会議の開催は不可能です。
国際会議などは1年前、2年前から予約するものですが、すでに今後の予約は激減しており、巨大産業である米国の旅行業界に大きな影を落としています。
必要十分なことでなくても、「とりあえずロビー活動ならやっておこう」という軽々しさがトランプ政権にはあります。今回の個人情報の提出については論外であり、まずあり得ない話です。こんなことをすれば、米国への入国そのものが激減し、大打撃を被ることになると思います。
先日トランプ政権は、米ツイッターに対する、政権を批判するアカウントの身元情報の開示命令を取り下げましたが、これも同様にトランプ政権の軽々しさの現れでしょう。
捜査とは別に、政府系機関が政府を批判する職員を水面下で探ろうとしたものですが、ツイッターが訴訟に持ち込んだことで米政府も矛を収めざるをえなくなった形です。政府系機関の職員で政府に批判的な人には、給与を支払う必要がないという意見もあったそうですが、いかにもトランプ大統領らしい発想だと思います。
バノン氏はホワイトハウスから追放されるだろう
トランプ米大統領が米国家安全保障会議(NSC)を再編し、側近のスティーブン・バノン米首席戦略官・上級顧問をメンバーから外したことが5日わかりました。トランプ氏は政権発足後、外交・安保の専門家ではないバノン氏を常任委員に抜てきしていた一方で、中核メンバーである統合参謀本部議長、国家情報長官(NID)を非常任委員に降格していましたが、この人事に与野党から反発の声が上がっていました。
おそらくこれでは収まらず、バノン氏を永久追放するという動きを見せると思います。マクマスター氏が進言したと言われていますが、実際に主導しているのはジャレッド・クシュナー氏(トランプ大統領の娘婿)でしょう。クシュナー氏が中心となり、バノン氏を追い出すグループを形成しています。それはNSCの常任委員にとどまらず、ホワイトハウスから追放するというところまで見据えているはずです。
トランプ政権の諸悪の根源は、このバノン氏とピーター・ナバロ氏と言われていましたが、現時点では見当違いな大統領令を発令させて目立っているので、まずバノン氏に白羽の矢が立ったというところでしょう。
バノン氏は嫌われていましたが、ある意味、トランプ政権の特徴的な存在です。バノン氏が抜けると、残るのはウォールストリート出身のお金持ちと軍人、という他の政権と代わり映えがしない顔ぶれになります。
また残るナバロ氏も、思ったよりも存在感が薄く、トランプ政権らしさを体現することはなさそうだと感じます。対中強硬派として知られる人物ですが、先日フロリダで行われた米中首脳会談を見る限り、その存在感はゼロに等しかったと思います。
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※この記事は4月9日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、米入国審査・米トランプ政権の話題についてお届けしました。
トランプ大統領の軽率なロビー活動により、国際会議などの予約が激減し、
旅行業界に大きな影を落としている米国。
これに対して大前は、トランプ政権の軽々しさの現れだと指摘しています。
ファクトをしっかり把握せずに人の意見や流行に左右されてしまうことは、
よくある問題解決の失敗例としてあげられます。
また、問題を引き起こしている本質的な要因が不明なまま、
対症療法的に飛びついてしまうことも、同様です。
ビジネス上の様々な問題解決を行う際には、本質的な問題を発見し、
これに対して、仮説作成とファクトに基づく検証を繰り返し、
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