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KON667「豊洲汚染問題・豊洲移転問題 ~小池氏のやり方は、謀略政治スタイル。決して都民ファーストではない」

2017年3月31日 豊洲汚染問題 豊洲移転問題

本文の内容
  • 豊洲汚染問題 環境基準100倍のベンゼン検出
  • 豊洲移転問題 石原氏追求は空振り

小池氏のやり方は、謀略政治スタイル。決して都民ファーストではない


豊洲市場の安全性について検討している東京都の専門家会議が19日、地下水モニタリングの再調査の結果を公表し、29箇所の調査地点の多くで、環境基準を上回るベンゼンやシアン、ヒ素などが検出されたことがわかりました。

しかし、平田座長は「地上と地下は別」とし「地下水対策をすれば将来環境基準を満たすことは可能」との見方を示しました。参加者からは「一般消費者はそうは思ってくれない」など、豊洲の安心に批判的な声が相次いだとのことです。

私が考える最も大きな問題は、この移転問題に小池都知事が「謀略政治スタイル」で取り組んだことです。豊洲市場への移転は11月に決定していた事項でした。本来なら、予定通り移転を完了し、その上で自分が感じている疑問点、懸念点について専門家に調査を依頼するべきだったと思います。そして必要であれば、解決策を講じれば良かったのです。これが「経営スタイル」の解決法です。

ところが、小池都知事は移転を止めてしまいました。結果として、移転予定だった人たちへの補償費も発生し、豊洲市場へ移転することで費用が安くなるはずだったのに、一層高い負担をする羽目になっています。経済性の議論から言っても、小池都知事の言う「都民ファースト」からは程遠い結果です。私に言わせれば、稚拙な意思決定だと言わざるを得ません。

さらには、地下水モニタリングの再調査といって、あちこち掘り返していますが、豊洲に限らずどこの土地であっても、掘り返せば何かしら問題はあります。そうではなくて、豊洲市場を機能させる上で、現実的なオペレーションレベルで何か問題があるのか、という点に目を向けるべきしょう。

例えば、豊洲のコンクリートの上を調査した結果、汚染レベルが基準値を超えるというならば、それは問題として取り上げるべきです。その上で、「裸の魚は直にコンクリートの上に置かない」といったオペレーションにするなど、解決策を考えていけば良いだけです。

小池都知事のやり方は、いたずらに都民を不安にさせています。昨年、日経ビジネスオンラインに「豊洲市場の土壌汚染問題、健康被害はあるのか」という記事が掲載されました。産業技術総合研究所の中西氏と、京都大学の藤井氏に、土壌汚染の考え方についてインタビューした内容でした。

・有害物質が地下水に入っているといっても、どのくらい人体に入るのか確認が必要
・有害物質そのものが拡散することは考えにくい
・地下水の水質管理の環境基準は、毎日2リットルの水を70年間飲み続けた場合に健康被害が出ることをふせぐための飲料水基準と同じ設定であり、今回の件に当てはめるべきか疑問
・過剰リスクを報道することで、それに怯えてゼロリスクを国民が要求するのは問題
・一連の騒動で風評被害が懸念される

など、中西氏と藤井氏の回答はほぼ私と同意見でした。

今の小池都知事のやり方、報道は「汚染の全ては石原都政の問題」として追求しています。そこまで言うなら、築地の地下も調査してみればよいでしょう。小池都知事は決して「都民ファースト」ではなく、「小池ファースト」だと私は感じます。

ポイントは豊洲利権ではなく、築地利権


日経新聞は21日、「石原氏追及は空振り」と題する記事を掲載しました。20日の東京都議会百条委員会の証人喚問に石原元都知事が登場したことを紹介。石原氏は、市場移転の決定責任を認める一方、「記憶にない」「報告を受けていない」を連発し、議員側の追及も決め手を欠いたと指摘。

前日の浜渦元副知事に続き、真相が明らかにならない展開に、傍聴した都民らからは不満や失望の声があがったとしています。

石原氏が「記憶にない」「報告を受けていない」を連発したとのことですが、おそらく覚えていないだけでしょう。私も何度となく、石原氏に報告をしたことがありますが、「それはよくわからないから、誰それに言っといて」と言われました。報告を受けていても、基本的にすぐに他人に振っていたので、自分の記憶に残っていないのだと思います。

石原氏の対応はさておき、本件の中核は浜渦氏であり、ここを理解していないと事実を見誤ってしまいます。元々、浜渦氏は「青年作家・石原慎太郎を総理に」という運動に参加していた人物で、その頃からの付き合いです。2000年石原氏のもとで東京都副知事になり、一度は罷免されたものの、石原氏によって都の参与に任命されています。

重要なポイントは、浜渦氏が「築地の利権」を握っている人物である、ということです。豊洲利権ではなく、「築地の跡地利用の利権」です。浜渦氏は、副知事を辞職した後、東京交通会館の副社長も務めたこともありますが、ここも跡地利用に含まれます。

今回の都議会百条委員会で質問した議員の人たちは、この点について追求すれば、もっと別の結果を得られただろう、と思います。

石原氏が3期務めた都知事を辞した後、石原氏と浜渦氏が「築地利権」の後継者として選んだのが、神奈川県知事の経験のあった松沢氏でした。ところが、東国原氏が立候補するとなって問題が起こりました。世論調査の結果、東国原氏が圧倒的な優勢を示したのです。東国原氏が都知事になれば、「築地利権」は失われます。当時、石原氏は本当に辞めたがっていましたが、「築地利権」を確保するため、致し方なく再度立候補しました。

その後のことも含め、浜渦氏と築地利権という点に焦点を当てていれば、質問内容も代わっていたでしょう。浜渦氏はおそらく偽証もしておらず、堂々と全ての質問を弾き返していましたが、そもそも質問のポイントがズレていたと指摘したいと思います。

東京には多くの「利権」があります。オリンピック利権もその1つです。今回の問題で言えば、ポイントは豊洲ではなく築地だったということです。極端なことを言えば、豊洲でなくても移転先はどこでも同じです。このポイントを抑えていなかったので、問題を見誤り、追求するものも追求できない形になってしまいました。



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※この記事は3月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、豊洲移転の話題についてお届けしました。

11月に決定していた豊洲移転を止めた小池都知事。

この問題に対して大前は、本来なら、予定通り移転を完了し、
その上で自分が感じている疑問点、懸念点について専門家に調査を依頼するべきで、
小池都知事の言う「都民ファースト」からは程遠い、稚拙な意思決定だと指摘しています。

意思決定を行うにあたっては、正しく問題を認識し、
問題を解決するための具体的な行動案を設計し、
その効果や影響、費やされるコストを評価し選択する必要があります。

このように、影響の連鎖の探求やリスク許容限界の設定などを
行ったうえで、意思決定を行っていきます。

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