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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON213 ソフトバンク 孫正義氏がもつ経験値と強みとは?~大前研一ニュースの視点~

2008年5月30日

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ソフトバンク 中国市場に攻勢
オーク・パシフィック 40%出資
アリババグループ 30%出資
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●ソフトバンク流 
 インターネットサービスで国境を越えて成功するには?


 ソフトバンクが中国のインターネット市場への攻勢を
 強めています。中国のネット人口は今年、世界最大になるとの
 見方もあり、孫正義社長は以前から市場開拓の重要性を
 強調してきました。


 ソフトバンクは中国のネット大手オーク・パシフィック・
 インタラクティブ(OPI)に40%出資し、筆頭株主になることで
 合意しました。孫社長が取締役に就任。
 投資規模は約400億円になるとのことです。


 「インターネット関連事業は国境を越えられない」
 ということを孫社長はしっかりと認識した上で戦略を
 構築しているのが特徴的であると思います。


 例えば、日本において、米国のインターネットオークション
 大手のイーベイが上手くサービスを展開できず、
 ヤフーオークションに完全に敗北したという事例があります。


 こういうケースは日本だけに限った話ではなく、これから
 インターネット市場の更なる加熱が予想される中国においても、
 外資のインターネット関連企業は軒並み苦戦を強いられている
 状況だと私は思います。


 こうした状況を正しく認識し、自ら米国でヤフーを買い、
 その株を売りながら日本のヤフーを育てた経験を持つ
 というのがソフトバンクの孫社長の経験値であり、
 強みだと言えるでしょう。


 その孫社長が目指すインターネット関連事業の海外戦略の
 基本は「その国のチャンピオンサービスを買ってしまう」
 というものです。


 総額約400億円を投じる今回の買収にしても、
 単にソフトバンクが中国最大のSNSを手に入れるというだけの
 ことではありません。


 中国という市場に対して、その国のチャンピオンサービスを
 ことごとく買っていくという一貫した戦略の1つだということを
 見落としてはいけないでしょう。


 今回の買収により、ソフトバンクグループが出資する
 中国企業は、中国最大のBtoBオンライン・マーケットを
 運営するアリババ・ドットコム、


 アリババ傘下のオンラインオークションサイトのタオバオ、


 そして今回発表された約2200万人の会員数を誇るSNSサイト
 運営企業のオーク・パシフィック・インタラクティブとなり、
 中国のインターネット企業のチャンピオンばかりを
 押さえた形になっています。


 また、こうした大きなディールに関する決断が驚くほど早い
 というのも、孫社長の特徴の1つだと思います。


 数百億円規模の投資案件についても、即断・即決をするため、
 しばしば相手が驚くことも多いと聞きます。


 私がかつてソフトバンクの社外取締役だったころ、
 たった2年の間に臨時取締役会が18回も開催されました。


 これは、例によって孫社長が即断・即決によって
 大きなディールをまとめようとするため、
 その度に臨時取締役会を開催する必要が出てきたからです。


 もちろん、これまでには失敗した案件もありましたが、
 何しろ「当たり」が大きいですから、孫社長の即断・即決の
 感覚には素晴らしいものがあると思います。


 ヤフージャパンの成功はもちろんのこと、中国関連で言えば、
 現在も約33%の株式を保有するアリババへの投資も
 成功しています。


 2001年に出資した約20億円が2007年上場時には
 約550億円まで膨んでいます。


●中国での投資は順調。
 一方、米ヤフーを巡る争いに絡まない理由は何か?


 2004年末には1億人に満たなかった中国のネット人口は、
 昨年末に2億1千万人に達したと言われています。今年中には
 米国を追い抜くのではないかという見方もあるほどです。


 しかも、2億人とは言え、中国の人口から考えると
 いまだに普及率は20%に満たない割合です。


 今のうちに投資しておけば、後々株式市場から
 爆発的に大きなリターンを得ることも夢ではないでしょう。


※「中国のネット利用人口と普及率」チャートを見る
→ 


 また、今のうちに投資することのもう1つのメリットは、
 今の段階で影響力を発揮して、恩を売っておくと、
 後々になっても影響力や発言力が得られるということです。


 今ではソフトバンクの米ヤフー株式の保有割合は
 約4%に過ぎませんが、未だに孫社長の米ヤフーへの影響力は
 あると思いますし、米ヤフー創業者のひとり、
 ジェリー・ヤン氏との関係も継続しています。


 同じように中国についても、一旦筆頭株主として影響力を持ち、
 投資先企業の成長とともに徐々に株を売却しキャピタルゲイン
 を確保しつつも、その影響力をある程度保持するという方法は
 有効だと私は見ています。


 米ヤフーとの関係性という意味では、マイクロソフトによる
 ヤフー買収というビッグディールに関して、孫社長が全く
 表舞台に出てきていないのは、何か裏で画策している「怪しさ」
 のようなものを感じてしまいます。


 孫社長はヤフーのジェリー・ヤン氏とも、マイクロソフトの
 ビル・ゲイツ氏とも親交が深いですから、何かしらの仕掛けは
 考えたはずだと私は見ています。


 今のところ沈黙しているところを見ると、
 大きな画策が当たらずに終わってしまったのか、
 あるいは、さらにこれから大きなことを発表する気なのか、
 注目したいところです。


 更にソフトバンクの今後の動向について注目していきたいのは、
 ソフトバンクが無議決権優先株の発行を取りやめたことの
 真意がどこにあるのかという点です。


 今のソフトバンクの株価ならば、この株価を持って
 第三者割当増資をすることで借金を返すのが得策だと
 私は思います。


 さらに言えば、私ならここぞとばかりに、
 競合のドコモに勝っているという話題や、中国での成功の話題、
 あるいはヤフーのディールに絡んでいるそぶりを見せることで、
 株価が上がってくるのを待つという戦略をとると思います。


 今、孫社長がなぜ動かないのか私には分かりません。
 少し対応を見ているのかも知れません。


 私に言われるまでもなく、こういうことが得意な孫社長ですから、
 そう簡単には行かない理由があったのかも知れません。
 いずれにせよ、ソフトバンク・孫社長の今後の動向には
 注目していきたいと思います。


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