大前研一「ニュースの視点」Blog

KON656「米トランプ次期大統領・米製造業・米ロ関係・米朝関係 ~トヨタは米国での貢献を主張せよ」

2017年1月13日 米トランプ次期大統領 米ロ関係 米朝関係 米製造業

本文の内容
  • 米トランプ次期大統領 ユダヤ資金の軍門に下ったトランプ
  • 米製造業 メキシコ工場建設を中止
  • 米ロ関係 ロシア外交官35人を国外退去処分
  • 米朝関係 トランプ新大統領は金正恩政権を崩壊させるのか?

カジノ王が注目する日本市場/トヨタは米国での貢献を主張せよ


JBプレスは先月27日、「ユダヤ資金の軍門に下ったトランプ」と題する記事を掲載しました。
トランプ氏が大統領選の後半で、ユダヤロビイストから巨額な資金提供や支援を受けていたとのこと。
トランプ氏も米産業界や政界を牛耳る影の影響力に傾倒する動きを見せており、これらを外交政策に反映させることになれば、
次期政権はジョージ・ブッシュ以上の戦争政権になる危険性があるとしています。

カジノ王・アデルソン氏。この人が大統領選においてトランプ陣営に25億円(一説には18億円)規模の最大の寄付をした人物だと言われています。
米国とイスラエルの二重国籍を持ち、ユダヤロビイストの中核を担う人です。

アデルソン氏のトランプ氏に対する影響力は非常に大きく、安倍首相がトランプ氏に会いに行ったら、「IR法(カジノ法)を通せ」と言われたことからも伺えます。
アデルソン氏は2年ほど前に来日したこともあり、現地を視察するなど日本市場への関心の高さを示していました。

日本は民族資本でカジノをやろうと思っているかもしれませんが、いざ始まったら米国からの圧力がかかり、アデルソン氏のような人物がメインになる可能性は十分にあります。
私は、日本に1兆円規模の資金と投じてくれるなら、それでも悪くはないと感じています。

カジノそのものは200億円ほどでつくることができるので、残りのお金を集客施策に使うなど、その他の活性化施策など様々なものに使えます。
シンガポールのマリナベイサンズも5000億円の資金が投じられましたが、カジノの建設費は200億円程度でした。
残りはツーリスト、会議、その他インテグレーテッドリゾートの建設に充てられました。
シンガポールにとってはGDPへの影響も大きく効果的だったと思います。

このように見ると、日本は開き直って、アデルソン氏に主導権を握って実行してもらうというのもありかも知れません。

* * *

米フォード・モーターは3日、メキシコでの工場新設をとりやめ、代わりに米ミシガン州の工場で電気自動車(EV)と自動運転車をつくると発表しました。
フォードはメキシコの新工場で小型車をつくり米国に逆輸入する計画でしたが、トランプ次期米大統領は、大統領就任後は高関税をかけると公言。
同様にゼネラル・モーターズやトヨタにも矛先を向けています。

矛先を向けられたトヨタとしても困った事態になったと感じているでしょうが、トヨタはこの20年間でどの米国メーカーよりも米国に貢献してきたという事実を毅然と説明するべきだと思います。
この20年間、トヨタは米自動車業界で最も雇用をつくった企業です。他の企業はリストラを実施しましたが、新しい雇用をトヨタ以上に生み出していません。
トヨタは米国内で多くの自動車を販売できる体制を築き、多数のトヨタ傘下の部品会社を米国に連れてきており、これによって米国内に数百万の雇用を生み出しています。

メキシコ工場については、グローバル戦略の一貫であり、多くはメキシコ国内、中南米中心であり、一部が米国に輸入されるに過ぎないこと、また逆に米国で作ったトヨタ車を中南米に輸出することが可能ということも説明すればよいでしょう。

トランプ氏はツイッターで即座に反応するという「短気」な一面を見せています。まともに対応する必要はありません。
フォードのように計画中止などを明言せず、とりあえず様子見で構いません。決してパニックになる必要はありません。


ロシアが仕掛けているのはハイブリッド戦争/北朝鮮の短距離ミサイルがソウルを火の海にする可能性


オバマ米大統領は先月29日、ロシア政府が米大統領選に干渉するためサイバー攻撃を仕掛けたとして、米国駐在のロシア外交官35人の国外退去処分など新たな制裁措置を発令しました。
これに対してロシアのプーチン大統領は即座に報復措置を取らないことを表明。
トランプ氏はプーチン氏について「非常に賢明だ、頭がいい人だとずっと思っていた」とツイートしました。

今のロシアは「サイバー攻撃」というよりも「ハイブリッド戦争」に力を入れています。これはハードウェアの戦争ではなく、経済的手段やメディアを利用する方法です。
今回もロシアは米国に対してハイブリッド戦争を仕掛けていた可能性があると思います。

ハイブリッド戦争では、相手の社会に深く入り込んで、内部から政治的意思をくじきます。例えば、ドイツに対してはドイツ在住のロシア人を動員し、反メルケル・デモを突如実施しています。
他にも、ロシア語を話す少女がドイツ在住の難民に暴行されたというデマを拡散しています。これにより難民に対する圧力が加わり、ドイツ政府は窮地に追い込まれました。

ロシアとドイツ(プーチン大統領とメルケル首相)は本来仲が良かったのですが、対露制裁にドイツがNATOと一緒に加わったことにプーチン大統領が怒りを覚えたのかも知れません。
なぜ、両者の関係性がおかしなものなっているのか、正確なところはわかりません。

* * *

JBプレスは4日、「トランプ新大統領は金正恩政権を崩壊させるのか?」と題する記事を掲載しました。

トランプ氏は1月2日、ツイッターで「北朝鮮は、アメリカに到達する核兵器の開発の最終段階にあると言うが、そんなことは起きない」とコメントした。
発言を遡ると北朝鮮の在り方を根本から変えさせるためには、中国との対決も辞さない姿勢が見て取れるとし、この動きは当然のことながら日本の安全保障にも激動をもたらすとしています。

仮に北朝鮮から大陸間弾道ミサイルが発射されたら、米国も同様のミサイルは保有しているので10倍の報復をすることは可能でしょう。
問題は、米国からの報復を受けて北朝鮮が韓国や日本に中距離、短距離ミサイルを発射する可能性があることです。

ソウルに向けた短距離ミサイルであれば、あっという間に1000発以上打ち込めるはずです。
もしこれをやられたら、ソウルが火の海になることは現実的に考えられます。米国にもこれを防ぐことはできないでしょう。

北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射しても、最終的には圧倒的に米国が勝つことは間違いありません。
しかし、短距離、中距離ミサイルを韓国や日本に打ち込んできたときの「生身の影響」は決して無視できるものではありません。
トランプ氏は「そんなことは、おきない」と発言しているようですが、とにかく「早まらない」でほしいと心から祈っています。


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※この記事は1月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、トランプ次期米大統領の打ち出す政策が日本自動車業界へ与える影響についてお届けしました。

高関税をかけるという矛先がトヨタにも向かっていることに対し、大前は、トヨタは米国へのこれまでの貢献内容を説明すればよいと主張。

このように、政治・ビジネスの世界では交渉の場面が多数あり、相手の次の一手が読めない中においても、自社に有利な状況を作っていく必要があります。

そのためには、自社の基本姿勢や戦略的アプローチを基に冷静な判断を行うことが大切です。


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