大前研一「ニュースの視点」Blog

KON650「福島第一原発事故・名古屋城・豊洲移転問題・2020年東京五輪 ~小池都知事は「経営者の意思決定」ができていない」

2016年12月2日 2020年東京五輪 名古屋城 福島第一原発事故 豊洲移転問題

本文の内容
  • 福島第一原発事故 賠償、廃炉費用の合計 想定2倍の20兆円
  • 名古屋城 天守閣倒壊の警告看板「耐震性能が不足しております」
  • 豊洲移転問題 移転時期は早くても2017年冬
  • 2020年東京五輪・パラリンピック 3競技会場見直しで詰めの協議

政府の初期動作の過ちが招いた福島第一原発の廃炉費用20兆円


経済産業省が、東京電力福島第一原子力発電所の賠償や廃炉費用の合計が20兆円を超えると推計していることがわかりました。
11兆円としてきたこれまでの想定の約2倍に膨らむもので、前回見積もりで想定しなかった賠償対象件数の増加や、除染作業の難しさが主な理由とのことです。

私は3.11東日本大震災の直後、福島第一原発事故は「補償だけで10兆円」に達するのではないかと指摘しました。これまでの見積もりが甘すぎだったと思います。
原発を1基建築する費用が約5000億円で、今夏は4基分の廃炉で20兆円。これはとんでもない費用です。

チェルノブイリ原発を見ると、25年以上経過してからも放射能が表に出ないようにいろいろと作業をしており、30年という超長期のメンテナンスが必要になっています。

米国のスリーマイル原発はもう少し落ち着いていますが、福島第一原発の場合には炉心溶融に加えて、そこに水が入り込んできたため処置はもっと厄介です。

福島第一原発は、歴史的に見ても記録的な高い廃炉費用を計上することになります。
20兆円という規模になると、普通の国では背負いきれない金額です。
ベトナムが原発建設の中止を発表しましたが、廃炉費用のリスクを考えると頷けるところです。

ただ、これだけ福島第一原発の廃炉費用が高くなったのは、当時の初期動作の失敗が原因だと私は思います。

除染に要求するレベルがあまりにも細かすぎて、それだけで5兆円もの費用がかかっていたり、ポリシーが定まらず迷走していました。
当時の民主党政権の大きな過ちの1つだと指摘せざるを得ないでしょう。

***

名古屋城を管理する名古屋市は18日、城の天守閣は震度6強の地震で倒壊・崩壊する危険性が高いとして、注意を呼びかける看板を城内3か所に設置しました。
ただ、立ち入り禁止は「名古屋観光への影響が大きい」という理由で見送っており、入るか入らないか、判断を委ねられた格好の観光客からは困惑する声が上がっているとのことです。

こんな中途半端なことをして、外国人観光客はどう思うでしょうか?
入場制限をするのか、あるいは何かしらの対策を講じるのか、そのどちらもせずに何かあっても「注意はしてあった」という責任回避を狙っているのでしょう。

入場制限をすると決めるか、そうでないなら具体的な対応策を決めて知らせるべきです。
看板で無意味な注意を促すのではなく、それを紙に書いて渡しても良いでしょう。
いい加減、無責任な役人体質はやめてもらいたいと強く思います。


小池都知事は「経営者の意思決定」ができていない


東京都の小池百合子知事は18日、築地市場の豊洲市場への移転実施が早くても1年後の来冬になるとの見通しを表明しました。来年の4月~5月、専門会議などが報告書をまとめ、その後環境アセスメントや関係省庁への認可手続きなどを進めると、この時期になるとのことです。

現在の流れを見ると、結局のところは「移転する」のは決まっていて、各種レポートも体裁を整えるためのもの、という印象を拭えません。
実質的に1年半の延期には意味がない、と私は感じています。
築地市場に比べて豊洲が極端に悪いわけではないのですから、「移転する」と決めているなら、いち早く動いてしまって、動きながら対策をとっていくべきだと思います。

今回発表した形式だけを見れば「移転しない」という選択肢もありますが、現実的にはほとんどないのであれば、1年半延期するだけで、補償費用など被害が大きくなり、お金が余計にかかってきます。これは意思決定要因として大きいはずです。

当初、小池都知事はよくやっているという評価でしたが、少し疑問を感じます。
専門家会議、環境アセスメントなどに委ねる形をとってあいまいにせず、都知事として条件が整えば移転するという意思を示すべきでしょう。

そして、実質的に無意味な1年半の延期という意思決定は「経営判断」として大きく誤っていると私は思います。

2020年東京五輪・パラリンピックの3競技会場の見直しの議論を見ていても同じことを感じます。
コスト削減をしたうえで、現行計画通り東京都内に新設する方向で、会場の変更は各競技の国際団体の反発が強く、現行計画の中止は補償費用などが必要となるため、縮小案が妥当と判断しているとのことです。

結果として、3競技会場について単にコストダウンするだけになるなら、小池都知事による一連の指摘は何だったのでしょうか?
小池都知事に言わせれば、自分が疑問を投げかけたことがコストダウンにつながった、と言うかも知れません。

しかし、ボート場などは仮設にし、2万人の座席を1万5千人に縮小するなど、気休め的な施策ばかりで大した成果とは感じられません。
これまで野放しになっていた予算について引き締めるという意味では、一定の効果はあったと思いますが、その程度だと思います。

先日、国際オリンピック委員会(IOC)に少なくとも2750億円は削減可能と指摘されたそうです。
状況をよく理解していない外国人が来て、2750億円の削減機会があると言われてしまうとは、みっともない話です。

豊洲移転問題を含め、この問題についても小池都知事の判断は、「経営者の意思決定」ではないと私は思います。
「都民ファースト」と言いながら、結局は納税者にツケが回ってくるという話になってしまいます。

今後の小池都知事の政策についても、正直雲行きが怪しくなってきたと感じています。


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※この記事は11月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、豊洲移転問題、五輪・パラリンピック問題における意思決定に関する話題をお届けしました。
十分な情報がなく、先が見えない状況においても、「意思決定」をする胆力が経営者には求められます。

前に進むのか、撤退するのか。

経営者は、限られた時間と情報の中で進むべき道を決定し、組織を強く牽引していくことが必要なのです。

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