大前研一「ニュースの視点」Blog

KON643「金融政策・フィンテック・世界金融市場 ~今さらインフレ期待を持ち出す黒田総裁の感覚は、かなりズレている」

2016年10月14日 フィンテック 世界金融市場 金融政策

本文の内容
  • 金融政策 新たな金融緩和の枠組み導入
  • フィンテック 「もう1つの戦い」が映す邦銀フィンテックの死角
  • 世界金融市場 市場が怯える「ABCDショック」
  • 米ウェルズ・ファーゴ 口座無断開設問題で2度目の議会証言

今さらインフレ期待を持ち出す黒田総裁の感覚は、かなりズレている


日銀は9月21日に開いた金融政策決定会合で、長短金利を誘導目標とする新たな金融緩和の枠組みを導入することを決定しました。

異次元緩和の導入から3年が経過し、日銀は金融政策の総括的な検証を実施。
物価上昇率2%の実現のためには、大胆な枠組みの変更が必要と判断したもので今後必要な場合にはマイナス金利の深掘りなども実施する考えを示しました。

日銀の黒田総裁は、自らの政策に自信をなくしてしまったのでしょう。
「量」から一転して、「金利」や「イールドカーブ」といった言葉が出てくるようになりました。

その上、インフレ期待の状況を作り出したいと述べ、将来モノの値段が上がるとなれば、消費者が今買ってくれるのではないかと見解を示しています。

私はこの発言を聞いて、驚いてしまいました。これは100年前の発想です。
世界でも例を見ない領域に突入している日本経済に適用できると本気で思っているのでしょうか?
さらには、10年国債について0%程度に誘導するようにイールドカーブコントロールを行うとのことですが、はなはだ疑問です。

これまで何もコントロールできなかった日銀が、こんな難しいことをできるとは到底思えません。

そもそも、なぜアベノミクスが機能しなかったのか?

何度も述べてきたように、本質的な問題は低欲望社会にあります。供給は旺盛でも、人はモノを欲しいと思っていないのです。
インフレで将来の物価があがると言われても、今の日本人にそれほど「今、欲しい」と思うものがあるでしょうか?

世界中には日本の金融政策が機能するところもあるでしょうが、今の日本ではむずかしいということはこれまでの事実が証明しています。

もっとこの点を深掘りして、本質を見極めて欲しいところです。
今さらインフレ期待を持ち出すなど、黒田総裁の感覚はこんなにズレていたのか?と情けなくなります。


日本にフィンテックが育ちにくい理由


日経新聞は、9月26日『「もう一つの戦い」が映す邦銀フィンテックの死角』と題する記事を掲載しました。

これは、日銀が金融政策の枠組み修正を発表していた21日の同じ時刻に、金融庁と日本経済新聞社が主催するフィンテックサミットが開かれ、日銀の岩下直行フィンテックセンター長が、国内銀行の対応の遅れを指摘した、と紹介。

しかしその背景にはベンチャーなど新規参入者がシェアを拡大しづらく、競争原理が働かない金融業界を作ってきたことがあるとし、金融技術が爆発的に進歩する中、日本の金融が競争力を高めるには何が必要か、まずは日銀が真剣に考える必要があると指摘しています。

日本でフィンテックが発達しにくい原因は、何でもかんでも規制をしてきたためです。
銀行とのやり取りは、すべて全銀システムを通す必要があるなど、例をあげれば枚挙にいとまがありません。

私に言わせれば、諸悪の根源は金融当局の過剰規制なのに、よくもこのような発言ができるものだと思います。


米国、ドイツ、中国など、世界経済はどこも手探り状態が続いている


日刊ゲンダイは先月29日、『市場が怯える「ABCDショック」』と題する記事を掲載しました。
これは、現在の金融市場の懸念はABCDで表されるとする市場関係者の見方を紹介したもの。

リーマン・ブラザーズの負債総額は約70兆円でしたが、ドイツ銀行はその4倍の260兆円に達すると見られ、Dショックの先には世界危機を上回る世界恐慌が待っている危険性が高いとしています。

Aはアメリカ(America)におけるトランプ大統領の誕生、Bは英国のEU離脱(Brexit)、Cはチャイナ(China)の景気減速、そしてDがドイツ銀行です。

トランプ大統領の誕生という可能性は、かなり低くなってきているので、それほど気にする必要はないかも知れません。

英国のEU離脱問題は、将来的にスコットランドなどがUK(ユナイテッドキングダム)から離脱する可能性が高く、そちらのほうが深刻です。
そして、中国(チャイナ)の景気減速は、米国バブル崩壊後の1929年の世界大恐慌に匹敵するような事態を引き起こす可能性があります。これは大きな問題です。

そして、ドイツ銀行の問題。これは南欧から欧州全体に波及して、かなり面倒なことになると思います。
独メルケル首相は「国は支援しない」と表明し、ドイツ銀行側も自力で解決できると述べています。しかし年初からすでに株価は50%落ち込んでいます。

ドイツ銀行は、クローバック条項を適用すると数千億円の返金を受け取れるとのことです。
ただ、この数千億円があってもドイツ銀行を救済するには全く足りません。

世界中の銀行がドイツ銀行と深い関係を持っています。
ドイツ銀行に何かがあると、経済が好調なドイツに影を落とすだけでなく、その影響はかなり大きなものになります。
10兆円、20兆円という規模の金融不祥事のトリガーになるかも知れません。

ドイツ銀行と同様、大きく揺れているのが米ウェルズ・ファーゴです。
スタンプ会長はクローバック条項の適用だけでなく、辞任を強く求められる始末で、破綻に追い込まれる可能性すらあります。

米ウェルズ・ファーゴといえば、リーマン・ショック後、もっとも元気があった米国一の銀行です。

その銀行が解体の憂き目にあうかもしれない、という事態に陥っています。

米ウェルズ・ファーゴ、独ドイツ銀行の問題があり、そして中国経済の危機も存在しています。

米国FRBは今年中にもう1度利上げを行うと発表していますが、世界中みんなが手探り状態で、あまりいい状況とは言えません。


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※この記事は10月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は金融政策についての話題をお届けしました。

新たな金融緩和の枠組みを導入すると発表した日銀。
大前は、これに対して日本の本質的な問題を見極めるべきだと主張しました。

問題解決者への第一歩として、本質が何かを問い続ける姿勢は、常に持っていなければならないものです。

問題が発生した場合も、「なぜ」を繰り返し考え続けることが重要です。

今回の大前の視点も、「そもそもなぜアベノミクスが機能しなかったのか?」を考えることから始まっています。


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