大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON201 東芝HD-DVDの撤退~規格争いの暗黙のルール

2008年2月29日

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 次世代DVD規格争い
 東芝「HD-DVD」事業撤回を正式発表
 07年末商戦不振、米ワーナーの離反で断念
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●HD-DVDの撤退による消費者への影響は?


19日、東芝は「HD-DVD」事業からの撤退を正式に発表しました。


ソニー陣営のブルーレイディスクと激しく規格争いを
していましたが、去年の年末商戦での不振、米映画会社
ワーナー・ブラザーズの離反などから事業継続の断念に
至ったとのことです。


また、エディオン、ヨドバシカメラなど主要量販店では
「HD-DVD」製品を売り場から撤去する動きも見られます。


この問題は大きな反響を呼んでいるので関心が高い人も
多いでしょう。


株式市場では、勝算のない赤字事業からの早期撤退を
評価する声も多いようですが、まず、全体像を整理してみます。


東芝が事業撤退を決めた直接のきっかけとなったのは、
DVDソフトの提供元であるワーナー・ブラザーズが、
東芝の「HD-DVD」からソニーの「ブルーレイディスク」に鞍替え
したことでしょう。


これによって、例えば米映画会社のDVDソフト販売における
金額シェアで見ると、ブルーレイディスクが66%を占めることに
なりました。


「HD-DVD」を採用しているのは、
パラマウントとユニバーサル等で全体の3分の1に過ぎない
ですから、このままではソフト不足になることは明らかです。


※「主な米映画会社のDVDソフト販売金額シェア」チャートを見る


このようなソフト不足という状況は、かつてビデオの規格で
VHSに敗れ去ったベータと全く同じ状況で、
事業撤退も止むを得ないと言えるでしょう。


では、東芝の事業撤退にあたり、今後、消費者にとって
どのような影響が考えられるでしょうか?


まず、東芝の対応としては、端的に言えば次の3点に集約されます。


それは、「返品には応じない」「修理は行う」「記録メディアは
当面販売を継続する」ということです。


ソフト販売については、今後、パラマウント、ユニバーサルを
代表とする映画ソフト会社が、いつまでHD-DVDを
継続利用するかは、現時点では何とも分かりません。


※「東芝のHD-DVD撤退の消費者に対する影響」チャートを見る


1つ確実に言えるのは、「HD-DVD」のソフトが圧倒的に不足する
可能性が高いということです。


これに対処するための対応法も検討されるでしょう。


例えば、レンタルショップなどでは、ブルーレイディスクから
HD-DVDに変換できる機材を備えることで、HD-DVDユーザーに
対応し、ソフト不足の問題に対処することなどが予想されます。


このような状況において、販売する立場にある家電量販店は、
ヨドバシカメラ、コジマ、ベスト電器などは「販売中止」、
逆にヤマダ電機、ビックカメラなどは「販売継続」という
意思表示をしています。


ここで問題となってくるのは、「ブルーレイディスクに交換する」
という対応を発表しているエディオンです。


これは絶対に選択してはいけない方法だと私は思います。


家庭用ビデオの「VHSとベータマックス」、
ビデオディスクの「LDとVHD」、オーディオディスクの「CDとAHD」、
DVDの「SD方式とMMCD方式」など、


これまでにも多くの規格争いがありました。


※「電機業界の主な規格争い」チャートを見る


こういった規格争いの暗黙のルールは、
敗れた方は静かに消えていくということです。


ところが、今回のエディオンのような対応が行われると、
「HD-DVD」が静かに消えるまえに、大きな火種を残してしまう
可能性があると私は考えています。


●エディオンのみ特別対応をするのは、間違いだ


それは、エディオンだけが特別対応をすることで、
特別対応をしない他のお店でも、「自分も取り替えたい」と
主張する人が必ず現れます。


こうなると、東芝は交換対応をしないと言っていても、
消費者の怒りが政府に波及し、政府が消費者救済を名目として
東芝に圧力をかける可能性があるのではないかと、
私は懸念してしまうのです。


特に、今の福田首相の言動を見ていると、
すぐに「国が面倒を見ます」という類の手法をとる可能性が
高いと思います。


具体的には、東芝を呼び出して、事業撤退は自由だが
消費者へ迷惑をかけるのは問題があるなどと言って、
100万台の交換対応を迫る可能性があるということです。


万一、このようなことになれば、東芝にとっては想定外
でしょうし、損失は甚大なものになってしまいます。


あくまでも可能性があるというレベルではありますが、
選挙も近いので福田首相がこのような動きをする危険は
十分にあると私は思います。


消費者にとって、規格争いは品質向上や低価格化という
メリットがある反面、常にこのように撤退する可能性がある
 方式を選択するリスクを負うデメリットが存在します。


しかし、これは事前に分かっていることですし、
消費者としてもそのリスクを想定して、
予め織り込んでおくべきだと思います。


今回の「HD-DVD」と「ブルーレイディスク」に関して言えば、
ブルーレイディスクにしたところで、それほど寿命は長くない
でしょう。


将来は、さらにブロードバンドが発達しますから、
全てホームサーバからHDDにダウンロードするという方法に
移行していく可能性が高いからです。


そのときには、東芝のHD-DVD機器もHDDレコーディング(記録)は
可能なので、HD-DVD機器を利用できるでしょうから、
今、ブルーレイディスクではないからといって、
HD-DVD機器を捨てるのはもったいないかも知れません。


私に言わせれば、いずれの規格も、そもそもハイビジョン対応の
ときにしか有効に使われない規格ですし、


40インチ以上などの大きなテレビでなければ
実感も変わらないでしょうから、
それほど大騒ぎするほどのことではないと思います。


ニュースを賑わしているからと言って、
単にそれだけの理由で関心を持ってもあまり意味はありません。


実用的な意味での効果・効用を考慮したうえで、
バランスをとることが大切だと思います。


                           以上


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この大前研一のメッセージは、2月24日に
BBT757Chで放映された大前研一ライブの内容を編集したものです。


BBT757Chのサイトでは、他にも大前のメッセージが ハイライト映像として
視聴(無料)できます。


他のメッセージを視聴する
→ http://bb.bbt757.com/news-bbt757.html
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