大前研一「ニュースの視点」Blog

KON633「インドネシア情勢・マレーシア高速鉄道 ~マレーシア高速鉄道受注には、経済の膨らみをトータルでアピールすべき」

2016年8月5日 インドネシア情勢 マレーシア高速鉄道

本文の内容
  • インドネシア情勢 閣僚級13人交代の内閣改造実施
  • インドネシア高速鉄道 インドネシア高速鉄道に暗雲
  • マレーシア高速鉄道 越境高速鉄道を2026年開業へ
  • 韓国超高速交通計画 「ハイパーループ」開発に着手

インドネシア閣僚の強力な陣容。特にムリヤニ氏に期待したい


インドネシアのジョコ大統領は先月27日、経済関連を中心に閣僚級の13人を交代させる大規模な内閣改造を実施しました。
これは世界銀行専務理事のスリ・ムルヤニ・インドラワティ氏を財務相に登用するなど経験豊富な人物をそろえたのが特徴。成長率が鈍化している国内経済のてこ入れを図る考えです。

私はジョコ大統領には全く期待していませんが、今回の閣僚人事は驚くほどの陣容だと感じました。
例えば、治安閣僚を歴任した有力退役軍人ウィラント元国軍司令官が治安調整相、世銀専務理事のスリ・ムルヤニ元財務相が再び財務相に返り咲きました。
他のメンバーを見ても、かなり強力な布陣です。
ジョコ大統領は頼りないだけに、これくらいの思い切ったことをやらないとインドネシアはやっていけないでしょう。

特に期待したいのは、ムリヤニ氏です。
第1次ユドヨノ政権下では財務相として、税収増や税関の汚職追及などに着手しました。
公務員の汚職を避けるため給与水準を引き上げるなど改革を進めましたが、経済界から疎まれて追放される形になりました。
しかし、ムリヤニ氏の優秀さは世界が知るところであり、世銀の専務理事に就任しました。
極めて優秀な人であり、アジア人としての誇りでもあります。その人物が戻ってくるとなって、どのくらい鋭い切れ味を見せてくれるのか、期待したいと思います。


問題が表面化してきた中国のインフラ投資


日経新聞は先月28日、インドネシア初の高速鉄道が着工して7月末で半年がたつと紹介。
中国企業とインドネシア国有企業の合弁会社が建設を進めているものの、土地収用や事業許可が進まず、中国の銀行からの融資もまとまらず、資金不足にもあえいでいると指摘しています。
対中姿勢の微妙な変化を背景に、ジョコ氏が見直しを宣言する可能性もゼロではないとしています。

このような事態を招いたのは、ジョコ大統領が日本を出し抜くような形で、日本から提示された設計図を全て中国に渡してしまったためです。私がジョコ大統領に期待できないと感じる一例です。

結局、中国からお金が回って来ず、土地の収容もうまくいかないままです。
再来年には完成予定ですが、いまだにブルドーザーが一部地域の整地作業を進めているにすぎず、予定に間に合うとは到底思えません。
中国側もすでに熱が冷めてしまって、知らぬ存ぜぬを決め込んでいる様子です。

中国のインフラ輸出案件を見ると、総じて上手くいっていません。
メキシコ、タイ、インドネシア、米国、ベネズエラ、ミャンマー、英国、スリランカなどを相手に、鉄道・発電所・港湾施設を請け負っていますが、その多くはおそらく上手く行かないだろうと思います。

中国主導の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に日本も乗っかるべき、という意見も未だに耳にしますが、こうした事例を見てもインフラ投資というのはそれほど簡単なものではないとわかります。

その具体的な事例が次々と表面化しつつあります。


マレーシア高速鉄道受注には、経済の膨らみをトータルでアピールすべき


シンガポールとマレーシア政府は先月19日、2026年をめどにシンガポール―クアラルンプール間を結ぶ越境高速鉄道を開業する方針を確認しました。

年内にも詳細を盛り込んだ2国間協定を結び、2017年中の鉄道建設・運営会社の国際入札の実施を目指すとのこと。日本、中国、韓国の受注競争が本格化する見通しです。

これは日本もぜひ受注したい案件の1つです。
もしマハティール氏がいれば、日本が選ばれたでしょうが、今回は「中国、韓国、日本」の三つ巴の戦いです。先ほどのインドネシアにおける中国の問題がどれほど影響するか、ポイントになるかも知れません。

私が日本に期待するのは、経済の膨らみを踏まえたトータルのアピールです。物理的に350キロを1時間半で結ぶのは簡単に実現できます。
JR東日本ならば、鉄道部分にとどまらず、駅ナカ・駅地下の設計、Suicaカードを含めて周辺の経済を取り込むところまで提案可能なはずです。

そこまで踏み込んで提案できれば、住民のメリットも大きく、相当なプラス評価だと思います。
全体の経済的な膨らみがどれだけあるのかをアピールできれば、違う観点からの競争となって日本は優位に立てると思います。

また高速鉄道と言えば、韓国の蔚山科学技術大(UNIST)が、先月21日、ソウル-釜山間を16分で走ることのできる「夢の列車」開発に着手することを明らかにしています。
「ハイパーループ」と呼ばれる交通システムで、減圧したチューブ内をカプセル状の車両が空中浮上し進むことで、最高時速1200キロを実現するというものです。

実物の完成目標は5年後、研究費として14億ウォン(約1億3000万円)が投じられる計画ですが、ネットユーザーからは「こんなものに着手するよりも、今走っている新幹線を日本並みに定刻通り発着させる方が先だ」と批判や懐疑的な声が上がっています。

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※この記事は7月31日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、インドネシアやマレーシアの情勢に関する話題についてお届けしました。

マレーシア高速鉄道の受注競争が三つ巴の戦いとなっている中、大前は、日本は「経済の膨らみを踏まえたトータルのアピール」ができれば優位に立てると解説しています。

このように、自分たちの強みを活かした打ち手をとることは、問題解決においても重要な姿勢です。
そのためには、市場情勢や競合など、取り巻く環境を理解し、大きな視野であらゆる可能性を検討していくことが大切です。

そうすることで、自社ならではの、大きなインパクトが見込める施策の創出につながっていきます。


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