大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON198 大前が視る、サブプライム問題と世界同時株安~後編~

2008年2月8日

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 サブプライムローン問題
 金融庁 金融機関を対象に証券化商品の調査
 仏ソシエテ・ジェネラル
 不正取引の疑いで元トレーダーを拘束
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●サブプライムローン問題の基本的な構造とは?


先週、サブプライムローン問題への対処として、
日本の役人が今さら一朝一夕に対処できる問題ではないこと、
またそれは日本に限ったことではなく、


今現在サブプライムローン問題を正しく分析し、
対応できている国は世界中でも見当たらないという点を
指摘しました。


今週は、今一度、サブプライムローン問題の基本構造から
見直し、その本質的問題を浮き彫りにした上で、
サブプライムローン問題解決への糸口をどう見つけて
いくべきかということを述べたいと思います。


まず、サブプライムローンの基本的な構造を整理してみます。


そもそもサブプライムローンとは、住宅ローン会社が
信用力の低い人に融資をするローンのことです。


多くの場合、住宅ローンの返済方法として当初数年間は
金利を低く抑えることで返済負担を軽減した設計に
なっています。


また、保有する住宅の資産価値が上昇すれば、
それを担保により金利の低いローンに借り換えることも可能です。


この住宅ローンが投資銀行に持ち込まれて小口債券化して、
MBS(モーゲージ証券)という金融商品になります。


MBSの段階であれば、住宅ローンを担保とした証券という
シンプルな構造なのですが、ここから更に他の証券と
組み合わせて再証券化が行われ、CDO(債務担保証券)という
複雑な構造を持つ担保証券になります。


CDOは、MBS・社債・ローン・ABSなど市場から様々な証券を
購入し、それらを組み合わせて小口債券化します。


そこから、それらをリスクに応じて再評価し、
AAA(シニア債)、AA~BB(メザニン債)、格付無し
(エクイティ債)に区分した上で、それらを束ねて証券化が
行われ、それぞれ、政府系ファンド、CDOマネージャー、
ヘッジ系ファンドなどへ販売されます。


さらに、この段階でCDOは、CDOマネージャー間でも売買され、
再証券化が行われ、より複雑な構造を持つ担保証券に
化けていきます。


これが繰り返し行われたのです。


※「サブプライム問題拡大の構図」チャートを見る


最終的に、投資家、ヘッジファンド、機関投資家が購入した
のは、このように再証券化が行われた結果、元のサブプライム
ローン部分がどこに含まれているのか、分からないほどに
複雑な構造を持つに至った金融商品だったのです。


この状況において、住宅ローンの返済金利が当初の低く抑えた
期間を終え、新たに低利のローンに借り換えることが
できなかった人が、ローンの返済が困難になるという事態が
発生しました。


もはや、サブプライムローン部分が、証券化された商品の
どこに入っているのかは分からない状態ですから、
どの商品にもサブプライムという地雷が埋まっているかも
知れず、純粋な商品というものが判断できなくなって
しまっているというのが今の状況です。


これがサブプライムローン問題の構造なのです。


返済が困難と認識されているローン残高は、
一説では30兆円と言われています。


この30兆円の地雷は、サブプライムローンの総額と言われている
300兆円にまぶされている状態です。


もちろん、このまま300兆円が爆発すれば
大変な問題になってしまいます。


ですから、いかにして、複雑な金融商品を解体して、
地雷の雷管となっているサブプライム部分だけを抜き出す
ことができるかという点が、今回のサブプライムローン問題の
解決策になります。


●サブプライムローン問題を解決する方法とは?


サブプライムローン問題を解決する唯一の方法は、
スウェーデン方式だと私は思います。


スウェーデン方式とは、90年代商業用ビルが破綻して
金融危機に陥ったスウェーデンで採用された方法で、
国家の信用を抵当に銀行をエマージェンシー・ルームに
収容して救済するという方法です。


具体的には、自ら問題があると思う金融機関は政府に
駆け込み救済を求めます。


その段階で政府がその金融機関に対して無限の保証を約束します。


政府預かりにすることで流動性危機に陥らないような
仕掛けを作っておいて、その上で政府監督の下、
金融機関の債権、債務の関係を全て解体して整理するのです。


そして、元気になった金融機関から1つずつ市場に
戻していくという方法です。


今回のサブプライムローン問題について、
この方法を実現しようとすれば、世界の各国が
エマージェンシー・ルームを作って、一旦300兆円という
巨額の債務を全て複数の政府共同で預かる仕掛けを作ります。


その上で、サブプライム部分だけを抜き出して寄せていき、
切り離していくという作業が必要になります。


また、同時に多くの契約書を見直す必要も出てくるでしょう。


今は、CDOの中に少しでもローンを返してくれない人の
ローン部分が含まれていると、商品全体として組成できない
という契約のものもあります。


このあたりを精査せずに、再証券化が繰り返されたことも
大いに問題です。


途方もない量の契約書の見直しという作業になると思いますが、
これも同時に解決しなければなりません。


このように1つ1つ安全性の高いものとそうでないものを
きちんと分けて、小口債券化の源流を辿る作業をすることが、
今回のサブプライムローン問題の解決の第一歩です。


ここまで作業した上で、サブプライム部分として
浮き彫りになった30兆円については、世界で協力して泣いて
捨てるしかありません。


30兆円であれば、何とか押さえ込める規模だと私は思います。


もし、現状のまま300兆円が爆発してしまったら、
それこそ取り返しのつかない大問題になってしまいます。


このようなサブプライムローン問題の本質を見てくると、
先月、米ブッシュ大統領が発表した減税による景気対策などは
極めて効果が薄いと私は思います。


なぜなら、問題なのは、金融機関を含めた仕組み
そのものであって、一般消費者は関係がないからです。


むしろ、エマージェンシー・ルームの仕組みは、
インフレには無力ですから、インフレ対策について各国の
中央銀行がしっかりと面倒を見る必要があります。


問題の本質を見抜けずに現象ばかりに目を奪われていると、
表面的な対策ばかりになってしまうということがよく分かります。


今は米国当局も、あまりの問題の恐ろしさに
スウェーデン方式を失念しているのかも知れません。


一刻も早く、問題の本質を掴み、問題解決へ向けて
動き出してもらいたいと願います。


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この大前研一のメッセージは、1月27日に
BBT757Chで放映された大前研一ライブの内容を編集したものです。


BBT757Chのサイトでは、他にも大前のメッセージが ハイライト映像として
視聴(無料)できます。


他のメッセージを視聴する
→ http://bb.bbt757.com/news-bbt757.html
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