- 本文の内容
-
- 改憲勢力が参院の3分の2超
- 安倍首相 デフレ脱却へ経済対策策定指示
- バーナンキ前FRB議長 「空からマネー」憶測
改憲ではなく、創憲。憲法8章から始めてほしい
第24回参院選の投開票が10日行われ、安倍首相が目指す憲法改正に前向きな勢力は、非改選と合わせて改憲の発議に必要な全議席の3分の2に達しました。
これについて安倍首相は「自民はそもそも改憲を言っている。それを前提に票を入れてくれた」と話す一方で、改憲案はこれから憲法審査会で議論する考えを強調しました。
選挙期間中はこのようなことは言っていませんでしたから、安倍首相のずるい点が出ていると思います。
しかし、選挙民もそれを理解した上で投票したというのは事実だと思います。
今回の選挙で「なぜ自民を選んだのか?」というと、野党にそもそも魅力がなかったという回答が約71%でした。
要するに「しょうがないから自民党にいれた」ということです。
結果、自民党が増えてちょうど単独過半数、公明党を含めると過半数を超えました。
自民・公明両党と、おおさか維新の会など、憲法改正に前向きな議員を含めると、参議院全体の3分の2の議席を占めることになりました。
民進党にとっては、だらしない結果に終わったと言えるでしょう。
改憲の手続きとしては、衆参両院で3分の2以上の賛成で可決、その後、国民投票で50%以上の賛成を得る、ということになります。
国民投票のハードルは高いと思います。
安倍首相は安全保障法制の類を入れ込みたい意向のようですが、不用意にやれば国民投票で否決されて終わるでしょう。
また自民党の改憲提案には、憲法96条の改正が含まれています。
それは、改憲の発議条件を衆院両院の3分の2から過半数に引き下げるというものです。
私は良くないと思います。
「過半数」というのは何かの流れがあると、割りと簡単に達することがあります。その度に国民投票をするのでは、国民としても困ります。
私としては、衆参両院ではなく、どちらか片方は過半数、もう片方は3分の2とするのが現実的だと思います。
小選挙区の多い衆議院よりも、どちらかというとムードで決まる可能性が高い参議院を3分の2条件にしておけば、いいバランサーになるでしょう。
改憲論議が盛り上がっていますが、私の意見を言わせてもらえば、私は改憲論者ではなく、憲法をゼロからつくり直すべきとする「創憲」論者です。
今の論議では、戦争の放棄を謳う「第9条」や、災害・テロ対策のための「緊急事態条項」などが俎上に載ることが多いですが、地方自治について規定する憲法8章から始めるべきだと考えています。
それは憲法で規定された統治機構を改めることから始められるからです。
この点については、拙著「君は憲法第8章を読んだか」(2016年8月発売)を読んで頂きたいと思います。
バーナンキ前FRB議長との会談は「末期的症状」
安倍首相は12日、石原伸晃経済財政・再生相にデフレ脱却に向けた経済対策を月内に策定するように指示しました。
経済対策はリニア中央新幹線などインフラ整備、中小企業の資金繰り支援、待機児童ゼロなどをめざす「一億総活躍」の加速、防災対応の強化の4本柱。
長時間労働の抑制など働き方改革も進め、息の長い経済成長を促す考えです。
今、スローガンのように踊っている言葉を見ると、「2%以上の経済成長」「GDP600兆円」という経済対策には何ら関係がありません。
リニアのインフラを整備しても、工事の経済効果はあるでしょうが、それだけです。
仮にリニアを使うことで東京-大阪間が1時間半で行けるとなっても、今2時間半かけて新幹線に乗っている客を奪うだけです。
リニアのインフラが整備されたことで、より多くの人が移動するようになるとは考えにくいでしょう。
つまり、これらは「経済対策」にはなっておらず、単に10兆円の無駄遣いを配分しているだけです。
あまつさえ、その担当に石原伸晃氏を任命するのは理解できません。
かねてから失言も多かった同氏ですが、今回の都知事選では「無能」をさらしたなどと、ネット上でも厳しく批判されています。
筋が通らない話ですが、安倍首相にとっては友人の1人だからでしょうか。全くもってお話になりません。
ところが、さらに追い打ちをかけるように安倍首相は、もう1人友人を招き入れています。
日経新聞は13日、『「空からマネー」臆測 バーナンキ氏、首相らと会談』と題する記事を掲載しました。
空から現金をばらまくように、政府が減税や給付金で国民にお金を届けるヘリコプター・マネー政策を日本が実施する、と紹介。
「ヘリコプター・ベン」の異名を取るバーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が来日し、安倍首相らと会談したことが臆測を呼んだとしています。
バーナンキ氏と言えば、FRB議長在任中はそれほどおかしな言動は目立ちませんでしたが、もともと学者の頃は「ロッキー山脈を平らにするだけで経済効果が期待できる」など、とんでもないことを言う人でした。
そんな人物だけに、「ヘリコプターからマネーがふってくる」ということで、株式市場の期待値が高まりました。
しかし、こんなものは経済政策でも何でもありません。
私は何度も言っていますが、日本の経済政策として重要なのは「1,700兆円の個人金融資産が安心して消費に向かうこと」です。
これが何よりも最大の経済政策です。
そのためには、国を信頼してもらう必要があります。
国に対する信頼度が低いから安心できずに、お金にしがみつくことになります。
いざというときでも、国が面倒を見てくれるとわかれば、残りの人生を楽しむためにお金を使うようになるはずです。
この点に着目した政策は1つもありません。どのくらい今の政府がズレているのか、情けない限りです。
政府がお金をばらまくとか、バーナンキ氏を呼んでくるなんて、私に言わせれば「末期的症状」だと思います。
---
※この記事は7月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、経済対策に関する話題をお届けしました。
政府は、リニア中央新幹線やインフラ整備などによって、デフレ脱却に向けた経済成長を促そうとしています。
しかし、本当にそれらは経済対策になるのでしょうか。
経済対策の目的は、デフレ脱却です。
デフレ脱却の対策を考えるためには、まず「なぜデフレになっているのか」という本質的な問題を把握することが重要です。
本質が押さえられていない施策は的外れになってしまい、大きな効果を見込むことはできません。
---
▼ 第6回 BBT×PRESIDENTエグゼクティブセミナー(8/27・8/28開催)
大前研一直伝!~経営者のための戦略思考~
お申込みはこちら⇒http://www.president.co.jp/LP/20160827_seminar/