大前研一「ニュースの視点」Blog

KON628「イギリス情勢~グレートブリテンの崩壊とEUへの影響」

2016年7月1日 EU イギリス

意外なことに若者は残留を支持していた英国の国民投票


EU 離脱の是非を問う国民投票が23日英国で行われ、開票の結果、離脱支持が過半数に達しました。

これを受けて残留を訴えてきたキャメロン首相は10月までに辞任する意向を表明。
その後、新しい首相がEUとの離脱交渉の開始を判断することになりますが、離脱すれば英国、EUとも影響力の低下は必至で国際情勢や世界経済とともに不安定化する懸念が広がっています。

僅差になるとの予想以上に、差がついた結果になりました。

地域別に見ると、スコットランドと北アイルランドは残留支持が多く、ウェールズとイングランドは離脱が上回りました。
(ロンドンを除く)イングランドが主として離脱をリードした形です。

そして、英国民にとっても予想外だったのは世代別の結果でしょう。
18歳から24歳までの若者は圧倒的に残留を支持し、その割合は73%でした。44歳までを見ても、残留が52%と上回っています。
一方で45歳以上になってくると、離脱支持が徐々に大きくなる結果になりました。

おそらく年配の人で離脱に投票した人の中には、「若者に悪いことをした」「そんなに若者が残留を望んでいるとは思わなかった」「もし事前にわかっていれば、離脱に投票しなかった」という人が多いのではないかと思います。

国民投票の前に、キャメロン首相はEUから離脱することによる経済的なインパクトを強調していましたが、むしろ「若者が望んでいるのだから、残留しよう」という「精神的」的な側面を前面に打ち出したほうが良かったかも知れません。

離脱派の人たちは、「自由になる」「独立記念日を」などと盛り上がっていましたが、今後は様々な困難が予想されます。

EUは全体で単一市場ということで、物も人も自由に移動できましたが、離脱するとそうはいきません。

英国の輸出先の割合を見ると、圧倒的にEUがナンバーワンです。EUから離脱すれば、当然のことながら輸出に関税がかかることになります。これは、かなり大変な事態です。

また、EU内には数十万人単位の英国人がいると思いますが、離脱となると彼らは帰らなくてはいけません。
これらの調整だけでも大変ですが、他にもEUに調和してきた国内の法律の見直しも含め、やらなくてはいけないことが山積しています。

そんな英国に対して、EU側は非常に冷たい態度を示しています。ドイツのメルケル首相などは、「離脱するなら、早く出て行け」と言わんばかりの態度です。

まずは「離脱の意向を伝えるだけ」というような中途半端な姿勢ではなく、出て行くならすぐにでも正式にEUに離脱の申し入れをしてほしい、ということでしょう。

EU側の感情も理解できます。今回の国民投票などそもそもやる必要が無いのに、わざわざ混乱を招くようなことをやってキャメロン首相は何をしているのか、という気持ちでしょう。


グレートブリテンの崩壊とEUへの影響


国民投票の結果を受けて、今後、どのような展開がありえるのか?

まず、大前提として国民投票には何ら「法的拘束力」はありません。
今回、EUからの離脱が過半数を超えましたが、議会で否決されれば残留することになります。
もちろん、その場合にはキャメロン首相は嘘つき呼ばわりされ、英国国内はぐちゃぐちゃになると思います。

すでに再投票を求める署名が200万、300万を超えたと報じられていますが、これも非常に難しいところです。
もしこれで再投票をするとなったら、今後誰も英国を相手にしてくれない状況になるでしょう。

今後の展開は予測が非常に難しいですが、私は「グレートブリテン」の崩壊という危険性を感じます。

スコットランドが独立投票をしたとき、彼らの思惑は独立後に今のアイルランドのようにEUに加盟することでした。
ところが、スコットランドの場合にはEUに属しているイングランドが反対すると加盟できないため、これが抑止力として働きました。

しかし今後、イングランドがEUに属さないとなると、スコットランドに対する同様の抑えは効かなくなります。スコットランドが再び独立に向けて動き出す可能性は高いと思います。

そうなれば、ウェールズ、北アイルランドでも独立運動が始まるかも知れません。ウェールズにしても征服された歴史を考えれば、独立したいと考えているでしょう。北アイルランドも、十数年前に和平交渉が成立して今では平和ですが、過去には長い間の争いと混乱がありました。ウェールズ同様に、独立の気運が高まる可能性は大いにあると思います。

また忘れてはいけないのが、「ロンドン」です。
離脱派が多かったイングランドにおいて、ロンドンはEUへの残留を支持しました。EUから離脱するとなると、金融センターのポジションをフランクフルトに奪われることは間違いありません。何とかその立場を死守したいはずです。

EUには、ルクセンブルクといった小さい国もあります。今、加盟に向けて動いているクロアチアやコソボと比べても、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは遜色ありません。

英国の状況変化だけでなく、EU内でもさらに動きがあるかも知れません。EU離脱をほのめかしているデンマークやハンガリーの動きを助長する可能性です。
ハンガリーはともかく、経済的に豊かなデンマークの離脱はEUとしても無視できない影響があるでしょう。EU内におけるドイツの負担がさらに増すことは間違いありません。
メルケル首相が怒り心頭になるのも頷けます。

各国の心理を考えると、可能性がありすぎてどこに落ち着くのか、予測不能です。

兎にも角にも現時点で言えば、英国は「やる必要もない国民投票」をやってしまったために、「進むも地獄、戻るも地獄」という非常に難しい立場にあります。

このままEUを離脱するにしても、議会でひっくり返すにしても、再投票するにしても、いばらの道しか残されていないと思います。


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※この記事は6月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はイギリス情勢に関する話題をお届けしました。

イギリスでEU離脱の国民投票が行われた結果、離脱派が過半数を達したことが報道されました。
これを受けて大前は、その背景を説明しながら、同国が抱えるリスクや周囲への影響を解説。そもそもやる必要のなかったことであると指摘しています。

問題解決においては、施策の目的の確認や、インパクトを予め見込んでおく必要があります。
特に、今回のイギリスの事例のように、ステークホルダーが複数おり影響範囲が大きくなる場合は、より慎重な検討が求められます。
事前に期待される効果やリスクを掴んでおくことが、解決策の実行に当たり重要です。

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