大前研一「ニュースの視点」Blog

KON625「消費増税・アメリカ経済~消費増税の延期について、海外経済に責任転嫁するのはおかしい」

2016年6月10日 アメリカ経済 消費増税

本文の内容
  • 消費増税 消費増税先送りも財政健全化目標を維持
  • アメリカ経済 4月から5月中旬「緩やかに拡大」

消費増税の延期について、海外経済に責任転嫁するのはおかしい


政府・与党は30日、安倍晋三首相が消費増税の2年半先送りを決断したのを受け、焦点となる財政健全化で基礎的財政収支を2020年度に黒字にする目標は維持する方針を固めました。

健全化の努力を訴え、市場で国債の信認を維持する狙いです。

今回の安倍首相の演説を聞いていると、とても正常に考えている結果とは思えません。一体どのようなロジックが頭の中で展開されているのか、私は理解に苦しみます。

安倍首相の演説によれば、次のようなことになります。

・アベノミクスは成果をあげている
・ゆえに、日本国内は上手くいっている
・しかし、海外経済に不安要素がある
・そのため世界経済の腰折れを防ぐために、増税を延期する

リーマン・ショックや3.11事件レベルの不測の事態が発生しないかぎり、消費増税の延期はないと公言していた安倍首相は、「今の海外経済の不安定要因は、リーマン・ショックどころではない」とも発言しています。

私に言わせれば、安倍首相はリーマン・ショックが起きてしまった原因すら正しく理解していません。

リーマン・ショックは、与信の低い人に売るべきではない住宅を売ったこと、かつ、銀行がそれを小口債権化してミックスして高い格付けで売ったことが原因です。こうした虚偽の構造に耐えられなくなったときに、一気に爆発したのです。

今世界経済を見渡しても、リーマン・ショックのようなメカニズムは見当たりません。何をもって安倍首相が「リーマン・ショック」を引き合いに出して危機感を煽っているのか、全く理解できません。

また安倍首相は「G7で合意を得て、その約束を果たすために増税を延期」とも言っていますが、海外の反応は白けたものです。晋三に同意した人は誰もいない、日本経済はいよいよ追い込まれてきた、というトーンが主流です。「海外の責任」により消費増税の延期が報道された同日、米国経済は「緩やかに拡大」という記事も掲載されていました。

また、先ごろインドの2015年度GDP成長率は7.6%を記録し、GDP統計上、中国以上の高成長が続けています。
ロシア、ブラジルでは一部問題を抱えていますが、その程度のことが日本経済に影響を与えるとも思えません。

何より安倍首相が言うように、アベノミクスは上手くいっていて国内経済が安定しているなら、なおさら影響を受けても問題はないはずです。

債務残高の国際比較を見ても、単年度の財政収支を見ても、日本経済の良さは見当たりません。かつて日本と同じレベルの債務残高に苦しんでいたイタリアも回復を見せており、明らかに先進国の中で日本の財政状況は良くありません。

財政改善の目処が立たないのに、2020年にはプライマリーバランスを堅持するといっても出来るわけがありません。

安倍首相は2017年の消費増税を公約していました。それをいとも簡単に「新しい状況、新しいルール」になったので延期する、では筋が通りません。

新しい状況とは何か?きちんと説明するべきです。


やりたい放題の安倍首相。マスコミも野党もまともに批判できず。


安倍首相はもう少し謙虚な姿勢を見せるべきだと思います。客観的に日本経済が問題を抱えていることは明らかです。
アベノミクスの効果ばかりを強調するのではなく、上手くいかなかった部分を認め、その原因を把握するべきでしょう。
端的に言えば、日本のような低欲望社会では20世紀型のマクロ経済政策を踏襲しても上手くいきません。

金利やマネタリーベースをいじっても無意味です。こうした原因分析を前提とした上で、「新しくこういう経済政策に変更した」ので、消費増税は延期するというのならば、まだ理解はできるかも知れません。

また日本経済に関しては、その危機は国債暴落によって引き起こされるものである、ということも重要な事実でしょう。
失業者が溢れているわけではないし、日本経済は危機的な状況ではない、と安倍首相は弁明しています。たしかに、それは一理あります。
日本はデフレ経済になっていますから、収入が増えなくても何とかやっていける状況になっています。

また外国に比べて日本は社会の構造が柔らかく、例えば子供が失業しても親の実家に転がり込むことができたり、大きな問題に発展しにくい特徴があります。

しかし、これらは何一つ日本経済の問題を解決していません。安倍首相は「給与をあげろ、時給をアップしろ」と声高に叫んでいますが、これも全くの見当外れです。

日本の個人金融資産1700兆円のうち、過半数は60歳以上ですでに働いていない人たちが保有しています。
いくら給与が高くなろうが、時給がアップしようが、この人たちには関係ありません。将来に不安があるから貯金をしているので、その不安が解消しなければ、この莫大な個人金融資産が市場に出てくることはありません。

逆に言えば、将来に対する不安を解消してあげれば、その心理を汲みとった政策を打ち出せれば、効果は期待できます。

これが高齢化社会の特徴です。古い経済学を踏襲したアベノミクスで効果が出ないのは、当然のことなのです。

私としては、野党・民主党にもっとこのようなことを勉強して、国民がわかるように、自民党に「ツッコミ」を入れてほしいと思います。

消費増税の延期論についても、自民党に対抗しているだけで、明確な理由がわかりません。

アベノミクスではまともな効果も出せず、公約も平気で破って消費増税を延期し、あまつさえ責任を海外に押し付けるなど、私には日本国民を小馬鹿にしていると感じます。

そんな首相を厳しく批判できる野党もいなければ、糾弾するマスコミもいません。安倍首相を恐れて、もはや仲良しクラブの記者団といった感じです。
これが今の日本の現実であり、驚くべき状況に陥っていると私は危機感を抱いています。


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※この記事は6月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は消費増税・アメリカ経済の話題をお届けしました。

安倍首相の演説について、大前は「筋が通っていない」と指摘。皆さんは、どうお考えになったでしょうか。

我々は無意識に、マスコミの報道を鵜呑みにしてしまいがちです。
しかし、常に「本当にそうなのか?」と疑う姿勢を忘れず、その話題の背景をファクトで捉えることで、ニュースの本質は見えてきます。

ファクトベースで物事を見る習慣をつけると、より本質的な議論ができるようになり、問題解決への一歩が踏み出せます。


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