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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON194 キヤノン・経団連会長御手洗氏も大手町の魔物に惑わされてしまったか?

2008年1月11日

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 日本経済
 日本経団連年頭所感
 今後10年以内に世界最高の所得水準達成を
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●所得の増加を目指すという目標は
          経済人の役目ではなく、政治家の役目だ


1日、日本経団連は、2008年の年頭所感を発表しました。


それによると、「現状の閉塞(へいそく)感を打ち破り、
躍動する日本経済を築いていくことが必要」として、
今後10年以内に世界最高の所得水準の達成を目指すよう
政府に求めたということです。


正直、この発表を経団連会長の御手洗氏が発表した
ということに、私は呆れてしまいました。


今後10年で世界最高の所得水準を目指すという目標が
現実的かどうか議論の余地があると思いますが、
私が指摘したい問題はこの点ではありません。


今回目標に定めた「所得を世界最高水準にする」という
方向性そのものが、経済人・財界人の立場から
目指すべきではないと私は思うのです。


なぜなら、経済人としては「所得=コスト」ですから、
「安ければ安い方がいい」という立場をとるのが普通ですし、
そういう立場をとることが経営上は正しいことだからです。


所得の増加を上回る生産性の向上を目指すという目標なら
経済人・財界人として、至極当然のことですが、
生産性に触れず所得の増加だけ目指す、という目標は
私にはまったく理解できません。


「所得増加」というのは、政治家が目指すべきことであり、
経済人が目指すものではありません。


経済人としては、一部の分野を除き、
今日本が世界に対して劣っている「生産性」を世界一にする
というような目標を立てるべきだと私は思います。


このような目標であれば、コストを抑えて、労働を促すことに
なりますから、経済人・経営者の立場とも矛盾しません。



●なぜか優秀な経営者であっても
            経団連に入ると、おかしな発言をする


また、そもそも今回の目標の前提には「日本は所得が低い」
ということを問題視していることになると思いますが、
この点も賛同しかねます。


主要国の1人あたり国民総所得の比較を見ても、
日本はアメリカには及びませんが、


英国・ドイツ・フランス・イタリアといった主要国に比べて、
それほどひどい数字ではありません。


この問題に焦点をあてること自体、経済的な観点からすると
的を外していると言えると思います。


※「主要国の1人あたり国民総所得の比較」チャートを見る


さらに、00年~07年の企業の利益・設備投資額と給与額の推移を
見ると、非常に面白い事実が見えてきます。


※「企業の利益・設備投資額と給与額の推移」チャートを見る


経団連は、口では「所得増加」と言いつつ、
現実の経営の数字では経常利益も伸び、設備投資も
膨らんできているのに、給与額は下落してきています。


これが現実の経営の結果です。


もしも所得を世界最高水準にするという立場をとるなら、
経常利益を給与に回してもっと労働分配率を上げるような
方針をとるべきですが、


御手洗氏が会長を務めるキヤノンにしても、
このようなことはしていないでしょう。


御手洗氏は、キヤノンの会長として、一人の経営者として、
非常に優秀な人だと思います。


それだけに、なぜこのような発言に至ったのか、
私には理解できません。


優秀な経営者であっても、不思議と経団連会長という立場に
なると、魔が差したとしか思えないような発言をすることが
あります。


かつてトヨタの奥田氏も、消費税を18%にするべきという
発言をしたことがありましたが、


自動車会社を経営する立場からは絶対に考えられない発言です。


私はこのような現象の比喩として「大手町(経団連の所在地)
には魔物が住んでいる」などと言う事がありますが、
残念なことに御手洗氏をもってしても、この魔物に
惑わされてしまったようです。


                         以上


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