大前研一「ニュースの視点」Blog

KON624「地方創生・経済財政政策・規制緩和~保育士の問題は「人手不足」ではない」

2016年6月3日 アメリカ経済 消費増税

本文の内容
  • 地方創生 「地方創生」尻すぼみ
  • 経済財政政策 「骨太の方針」素案、「一億総活躍プラン」策定
  • 規制緩和 人手不足で規制緩和

地方創生は憲法改正をしない限り、実現不可能


日経新聞は20日、『「地方創生」尻すぼみ』と題する記事を掲載しました。これは政府が20日、地方創生の新たな基本方針の素案を公表したことを受けたものです。

地方創生は安倍首相が政権の目玉に掲げたテーマですが、いまは「一億総活躍社会の実現」に押され、注目度が低下。
東京一極集中の是正などの目標も達成の見通しは立っていないとし、政府・与党内では「尻すぼみ」と指摘する声も上がっている、と紹介しています。

「地方創生」という言葉だけが独り歩きしているだけで、全く実態が伴っていません。
地方創生に本気で取り組もうと思うなら、地方の自立を妨げている憲法の内容を改正する必要があります。

中央省庁がすべてを仕切る現在の憲法のままでは、地方創生など絶対に不可能です。それを1,000億円程度で実現しようというのは、笑ってしまうレベルです。

根本的な問題に着手しないで、言葉遊びをしているだけに私には感じられます。クーポンを配りまくった、かつてのふるさと創生事業と同じです。

アベノミクスで惨敗し、アベノミクス2が出てきたと思ったら、今度は「1億総活躍社会の実現」というスローガンが登場しました。
ところが、保育園の問題、女性の社会参加の問題など、どれ1つとして具体的に実行されたものがなく、まるで蜃気楼のように実態がありません。安倍首相の特徴です。

1つでもいいから、何か実行して具体的に形にしてもらいたいと思います。
言葉遊びだけを続けてきて、最後の最後は「リーマン・ショック前の状況と同じ」などと発言し、国民に恐怖感を与えています。
民進党の岡田代表は「アベノミクスの失敗を認めるべき」と発言していますが、これは正しいと思います。


1億総活躍プランの根本的な矛盾。言葉遊びはやめよ


政府は18日、経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」の素案と、人口1億人を維持するための「ニッポン一億総活躍プラン」をまとめました。

2021年度までに国内総生産(GDP)を600兆円に増やす目標の実現に向け、働き方改革による生産性の向上や、少子高齢化の克服に力を入れることなどを打ち出したもので、成長路線による経済再生の道を引き続き模索するものになっているとのことです。

かつて竹中平蔵氏が「骨太」と打ち出し方をして以来、何かとこの言葉が便利に使われてきましたが、私に言わせると「内容が薄い」ものが非常に多いと感じます。当時、竹中平蔵氏が打ち出した骨太計画も結局、ほとんどが実現されずに終わっています。

この政府発表を見るだけでも、やはり「言葉遊び」をしているにすぎないとわかります。

1億総活躍と言いながら、一方では生産性の向上やAIの活用を図ると言います。これは明らかに矛盾しています。生産性を向上させ、AIやロボットの活用が進むほど、どう考えても失業が増えて雇用が減ります。言葉遊びだけで、いくら何でも鈍感に過ぎると思います。


保育士の問題は「人手不足」ではない


政府は保育や観光の分野で深刻な人手不足の解消に向け、実態に合わなくなった規制の緩和に動く方針を明らかにしました。
保育士の賃金引き上げや国家資格がなくても有償で通訳ガイドをできるようにする方針で、人手不足が日本経済の成長を妨げないように、人材確保に本腰を入れるとのことです。

根本的な問題として、「人手不足」は問題ではありません。私は昔からずっと指摘しています。

例えば、子育てが終わって家にいる主婦を活用します。彼女たちに待機児童の面倒を見てもらうような、義理の里親制度を作ればいいのです。高齢者はたくさんいるのですから、あっという間に実現できます。新しく何かを大々的に導入する必要などありません。

保育士の資格登録者は増えているのに、勤務する人が増えないのは、待遇の問題などがあるのでしょう。ここを掘り下げてもっと勉強すべきです。ただ1万円を渡しておしまい、では何の解決にもつながりません。

資格無しで通訳ガイドを可能にするのも、おかしな話です。通訳の資格を持っていても実際に役に立たないのならば、資格試験の内容を変更するべきです。資格がなくてもいいというのは、本質論ではありません。

また、通訳が英語に偏りすぎているのも問題です。中国語などは、中国人留学生ができるように制度を整えてあげても良いでしょう。実際には非公式で通訳をやっている人も多いと思いますが、留学生の収入が高くなると奨学金制度に抵触する恐れもあります。

その他、耕作放棄地も増えるなど、様々な規制が時代に合わなくなってきています。今の時代に適した形で運用できるように、表面的なことではなく、本質を見極めて欲しいところです。


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※この記事は5月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています

今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は地方創生・経済財政政策・規制緩和の話題をお届けしました。

保育や観光の分野の「人手不足」解消に向け、実態に合わなくなった規制の緩和に動く方針を発表した政府。

これに対し大前は、表面的なことではなく、本質を見極めて対策を打つよう指摘しています。

有効な打ち手を考えるためには、まず本質的な問題を発見することが重要です。

取り巻く環境を理解し、現状を正しく認識することで問題を特定でき、
対処療法ではない、インパクトある施策の創出につなげることができます。

制度や待遇、規制などの見えやすい事柄のみに目を向けていては、
場当たり的な解決策しか考えることはできません。


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