大前研一「ニュースの視点」Blog

KON622「燃費データ不正問題~日産が三菱自動車を手に入れるメリットとは?」

2016年5月20日 燃費データ不正問題

本文の内容
  • 燃費データ不正問題 燃料代、軽自動車税など差額補償

日産が三菱自動車を手に入れるメリットとは?


三菱自動車による燃費データの不正問題で、三菱自と日産自動車は9日、対象車の顧客に燃料代や軽自動車税などの差額を補償する方針を決めました。また、日産自動車は約2000億円を投じて三菱自動車の3割強の株式を取得することでも合意に至りました。

三菱自動車をめぐる可能性は大きく3つあったと思います。

1つは、東風汽車・中国第一汽車などの中国メーカー。将来の排ガス規制への技術トラブルもあり、三菱自動車の技術力や経験は手に入れたいと思っていたはずです。

もう1つが、グーグル・アマゾン・テスラなどの米国勢。電気自動車、自動運転車などの開発にあたり、実際に製造する技術を持つ三菱自動車は狙い目だったでしょう。

そして最後が、これまで三菱自動車と関係が深かった日産自動車による買収でした。

今回のゴーン氏の行動力と素早さは「さすが」だと思います。三菱自動車の株式34%を保有するのに費やす約2000億円を投じるとのことですが、日産にとっては安いものでしょう。

まず、日産にとって大きなメリットになるのが「シェア」獲得です。

軽自動車の新車販売台数における日産のシェアは11.1%で、三菱は3.2%です。数字だけを見ると三菱の影響力は小さいですが、実際には日産の製造も三菱が担当していますから、数字以上に効果的だと思います。

そして新車販売台数全体で見ると、三菱は100万台に達しています。
腐っても鯛と言えるでしょう。

ルノー・日産が約852万台ですから、三菱を合わせると900万台を突破します。そうなると、GMとVWが視野に入ってきて、一気に世界トップ2、3に食い込める可能性が出てくるのです。これは日産にとって、千載一遇のチャンスだと思います。

次に、ロシアやオーストラリアなどの地域における「三菱のブランド力」も大いに魅力的です。

日産も日米欧以外のインドネシアに強いなど、似たような強みを持っています。
特に、今ゴーン氏の頭の中には「ロシア」があるはずです。

数年前ロシアのアフトワズ社の経営権を所得(株式を50%保有)しているほどですから重要視しているでしょう。

そのロシアにおいては、パジェロ、ランサーを擁する三菱ブランドが高いブランド価値を持っています。
ロシアはモスクワ以外に目を向けると、まさにパリ・ダカールラリーを行うような地形が多く、そんな地域で乗る車としてパジェロやランサーは最適です。三菱はパジェロの生産を中止する意向らしいですが、おそらくゴーン氏は復活させると思います。

さらに、インドネシアや、かつて工場があったオーストラリアでも、三菱ブランドは人気があります。

ルノー・日産が手を出せていない地域で、三菱は強いブランド力を持っているのでこれは大いに活用できるでしょう。


ゴーン氏は今後どう動くのか?三菱自動車を完全子会社化するのか?


現在、34%まで三菱自動車株を保有したゴーン氏は今後どう動くのか?おそらく狙いはこうだと思います。

まず、このままだと三菱自動車は燃料不正問題の損害賠償で、莫大な損失を出すことになると思います。

このとき、三菱の上場を維持したままにしておきます。莫大な損失を計上したことで、一気に三菱自動車の株価は下落します。その最安値でゴーン氏は三菱自動車の株を全部買おうとしているのではないかと、私は見ています。

こうした動きを制約されないために、他人にちょっかいを出させないために、34%の株を保有して「つばをつけた」状態にしているのでしょう。

自分で買っておいて価値を下げ、安くなったら全部買う。カルロス・ゴーンという人は、こういう発想をする男だと思います。

日本人には理解しづらいかも知れませんが、中近東のビジネスだとこの程度のことは普通だと言えます。

三菱商事、銀行、重工とそろっていても、日本の貴族みたいなものですから、中近東のレバノンにルーツをもち、厳しい国際競争環境で揉まれたゴーン氏からすれば相手にもならないでしょう。

実際、三菱自動車を完全子会社化するかはわかりませんが、どのようになっても「三菱」というブランドは残すでしょうし、残さなければ意味がありません。
ロシア、インドネシア、オーストラリアなど、少し変わった地域における三菱ブランドの強さ、知名度を捨てるのはナンセンスです。

果たして、ゴーン氏の思惑通り進むかどうか、今後の展開に注目したいと思います。

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※この記事は5月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は三菱自動車と日産の話題をお届けしました。

三菱自動車の株式取得を行ったカルロスゴーン氏。大前は、その行動力と素早さに「さすが」であると言及しています。

変化が激しいビジネス社会においては、自社にとってのチャンスを察知する能力が求められます。

またそのチャンスは、自社の強みや業界構造を熟知しているほど掴みやすくなるものです。

取り巻く環境を理解する視点を持ち、常にアンテナを張ろうとすること。
問題解決を行うにおいて、重要なポイントです。

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