大前研一「ニュースの視点」Blog

KON619「トヨタ自動車・三菱自動車・独フォルクスワーゲン・自動車排ガス問題~三菱自動車に残された道は?」

2016年5月1日 トヨタ自動車 フォルクスワーゲン 三菱自動車 自動車排ガス問題

本文の内容
  • トヨタ自動車 全国の完成車工場生産を段階的に停止
  • 三菱自動車 「eKワゴン」「eKスペース」など4車種で燃費不正
  • 独フォルクスワーゲン 約57万台の顧客対応策まとめ
  • 自動車排ガス問題 各国自動車大手が排ガス量調整ソフトを搭載

災害時対応が必要なサプライチェーン


トヨタ自動車は、18~23日に全国の完成車工場の生産を段階的に停止しました。熊本地震の影響で、トヨタグループのアイシン精機が熊本市の子会社で扱うドアやエンジンなどの部品の生産が止まったことを受けたものです。

東日本大震災のときも大変でしたが、九州には多くの自動車会社、半導体会社、タイヤ会社などがあるので今回も大きな影響があるでしょう。

東日本大震災、タイ洪水、中越沖地震などの自然災害によって、工場が受ける被害は甚大です。

いわゆるトヨタ方式で無駄な在庫を持たないサプライチェーンは稼働時には良いのですが、不測の事態で停止してしまうと、逆に何もできなくなってしまいます。その点を考慮すると、物流面で見て多少のバッファが必要だと感じます。

今回に関して言えば、アイシン精機という基幹会社が打撃を受けたため、これだけ大きな影響が出てしまいました。1つの供給源ではなく、複数の工場を持つことでリスク分散することも重要でしょう。


三菱自動車に残された道は?


三菱自動車が軽自動車4車種で燃費を実際より良く見せる不正を意図的に行っていました。軽自動車分野で提携する日産が燃費性能を調べたところ数値に開きが見つかり、三菱自の社内調査で不正が発覚しました。あらためて経営責任と企業体質が問われています。

もはや企業体質、染色体に刻まれていると言われてもしょうがない事態です。燃料問題はフォルクスワーゲンも苦しんでいるほどですから、かなり難しい問題なのは間違いありません。

軽自動車の新車販売台数のシェアを見ると、ダイハツ、スズキが圧倒的です。かつてのトップであるホンダでさえ3位で苦しんでいます。そのような中、三菱自動車は5位。ここに焦りがあったのかも知れません。

唯一、不幸中の幸いだったのは、軽自動車はほとんど米国市場で関係がないことです。米国がデータを提出しろと求めているそうですが、軽自動車はほとんど輸出対象にはならないので、問題ないでしょう。

私はパジェロに乗っていますが、今のところパジェロは「グレー」だそうです。個人的には燃費が悪くなったとしても、ほとんど気にすることはありませんが、中にはエコカー減税など税金の補助をもらっている人もいるでしょう。その場合には少し厄介です。

今回の影響を数値に直していけば、三菱自動車は倒産・破産に追い込まれる可能性があると思います。現時点でいえば、すぐにひっくり返ることはありませんが、自動車産業に身をおく限り、今後も前へ進んでいくためにはお金が必要です。

特に、環境に関しては世界的に厳しいハードルが待ち構えています。2020年、2025年など米国が発表している基準もあり、そこまで対応できるのか?となると難しいかも知れません。

今回のことで、三菱自動車の時価総額は1兆円から4~5000億円にまで落ち込んでいます。そうなると、自社だけで環境問題に対応できない中国企業が三菱自動車の買収に名乗りを上げる可能性があると思います。

テスラ、グーグルなど資金に余裕がある米国企業が、三菱自動車が持つ、リアルに車を作ることが出来る工場を求めて買収してくる可能性も否定できません。これらの企業にとって、4~5000億円程度は全く問題ありません。

三菱自動車の失態は過去にもありましたから、三菱グループとしてさすがに救済に乗り出すことはできないでしょう。売却というオプションは現実的だと思います。そうなってくると、意外に三菱自動車の時価総額は持ち直すかも知れません。

シャープ化するか、あるいは新興企業の中から良い貰い手が現れるか、今後の展開に注目したいと思います。


排ガス問題の影響は大。フォルクスワーゲンにとっても試練。


独フォルクスワーゲンは21日、米国での約57万台の排ガス不正対象車について、顧客への対応策をとりまとめました。リコール(回収・無償修理)を行っても、燃費が適正値に戻れば走行性能が落ち、顧客利便を損なうとの批判に配慮し、一部車の買い取りや金銭補償など異例の手厚い措置を含めたものになっています。

業績への影響がどこまで広がるかは依然不透明です。米国では50万台に対して、1台当たり1万ドルの保証とそのままの利用、という形をとることになりそうです。この試算で行くと、1100億円ではなく5000億円近い負担になります。

一方、ドイツでは保証がゼロということですが、これで満足するとは思えません。全体としては1兆5000億円~2兆円になるのではないかと私は見ています。現状、まだ入り口を覗いただけで、今後数字は膨らんでいくでしょう。そのときには、さすがのフォルクスワーゲンも厳しい局面に立たされることになると思います。

ドイツ運輸当局は22日、国内外メーカーのディーゼル車を対象にした排ガス調査の結果を発表しました。調査した53モデルのうち16ブランドの22モデルで基準値を超える窒素酸化物が検出されたということです。ドイツでは米GMのオペル、日本でも日産などが今回の検査に引っかかったということです。

エンジンの問題は、作った側の責任なのか、売った側の責任なのか、という問題もあります。排ガス問題は社会的に大きな問題ですし、国としても取り組む必要があります。

日本では、今になって第3者機関によるチェックが必要などと言っているレベルなので、今後やるべきことは山積していると言えるでしょう。

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※この記事は4月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は三菱自動車の話題をお届けしました。

燃費をより良く見せる不正を意図的に働いた同社。大前は、業界5位の立場に焦りを感じていたのでは?と推察しています。

その場しのぎの対象療法では、後で大きなツケを払うことになります。企業が他社との競争に勝っていくためには、長期的な視点で成長戦略を描かなくてはいけません。

本質的な問題を理解しない限り、大きな成長は望めません。自社の問題の根本は何なのか?このような視点を持ち、解決策を検討していくことが重要です。

★ゴールデンウィークは学びの検討期間にしませんか?
問題解決力トレーニングプログラム(大前研一総監修)
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