大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON191 なぜユーロは強い?代表通貨の規律の違いとは

2007年12月7日

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EU・ユーロ圏
 財政赤字の「3%基準」 13カ国すべて達成へ
 08年から15カ国へ拡大
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●円・ドルが弱くなり、ユーロが強くなったのは、「規律」の違い


EUのユーロ圏13カ国すべてが2007年に安定・成長協定
(財政協定)違反を解消する見込みとなりました。


通貨ユーロの全導入国が「3%基準」を満たすのは
02年の流通開始以来初めてのことで、景気回復で財政収支の
改善が急速に進んでいます。


また、地中海のキプロスとマルタによる通貨ユーロの導入が
最終承認され、2008年1月にユーロ採用国は15カ国に拡大する
予定です。


このニュースは極めて重要です。


なぜ、ユーロの全導入国が「3%基準」を満たすという
素晴らしい結果を出せたのか?


なぜ、円とドルが弱くなり、ユーロが強くなるのか?
という根本的な構造の相違に気づくことが大切です。


ひと言で言ってしまえば、
『箍(たが)がしっかりはまっているかどうか』という点に
あると私は思います。


具体的には、ユーロ加盟国には、ユーロ導入のための
厳しい条件をクリアしなければならないという
明確な規律があります。


※「ユーロ導入の条件」チャートを見る


例えば、「財政赤字がGDPの3%以下」「債務残高がGDP60%以下」
などを見ても、日本がクリアできていない厳しい条件で
あることがわかります。


これらの条件を満たせないとユーロに加盟し続けることが
できなくなりますし、


またそこまでいかなくても財政赤字が一定期間内に
改善されないと、罰金等の制裁措置が課せられるので、
ユーロ加盟国は必至に対応しているのだと思います。


一方、日本やアメリカでは、このような明確な規律が
ないために、為政者が無駄遣いできてしまうという
「箍(たが)がはまっていない」仕組みです。


まさに野放図状態です。このような両者を比べたとき、
今後どちらが強くなっていくのか?
というのは、明々白々でしょう。


●堅調なユーロ圏の実績。
        ユーロを機軸とする世界通貨誕生の可能性


実際、06年の財政赤字(GDP比)の比較を見てみると、
日本:4.3%、米国:3.7%、英国:3.0%、に対して、
ユーロ圏:1.5%という数字になっています。


※「日米英、ユーロ圏の財政赤字の比較」チャートを見る


規律がしっかりしているがゆえに、ユーロが強くなっていく
という一面を、如実に表していると思います。


また、ユーロ圏各国の財政赤字(GDP比)の比較を見ると、
さらにこの傾向が強く見て取れます。


※「ユーロ圏各国の財政赤字の比較」チャートを見る


この15年の間に、ポルトガル:7.7%→3.3%、
イタリア:10.1%→2.5%、ギリシャ:10.4%→1.9%と、
劇的に赤字の割合を減らしています。


フィンランド、アイルランド、スペインにいたっては、
黒字転換しているほどです。


こうしたユーロ圏の国に対して、日本はGDP約500兆円とすると、
30兆円も40兆円も国債を発行していることになるのですから、
全くお話になりません。


私は以前から、ドルとユーロがクリンチして「ユーラー」
という世界通貨へと流れていく予測をしていますが、
このユーロの勢いを鑑みると、世界通貨はユーロが機軸となる
可能性が強いでしょう。


そうなれば、日本円も人民元も力を維持することは難しく、
ユーロ中心のユーラーがクリンチする形で
円も元も飲み込んでしまうと思います。


1993年に発効されたマーストリヒト条約から本格化した
ユーロの道。


当初は、私も学者が作った規律がどれだけ守られるのか
という点に疑問を感じていましたが、見事にその規律を
守り抜くことで、ユーロ圏の国は力をつけてきています。


日本やアメリカには「規律」がありません。


それは政治を見ていても、強く感じます。


ルールなき野放図な日米が、ルールを作り実直に守ってきた
ユーロ圏に敗北する構図は明らかです。


まず、日本の政治家には、この事実を正しく認識して
いただきたいと思います。


                         以上


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上記のスライドは、ビジネス・ブレークスルー総合研究に
よって制作されています。


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