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株安は危機へのシグナルか?
先週、世界的な株安が続く中で株価が乱高下した。
アメリカの利上げ継続観測を受け、
アジア株など新興市場に流入していた欧米ファンドの資金が、
引き上げはじめていることが原因と見られる。
アジア株の全面安、アメリカ経済の失速懸念など、
世界の市場全体が不透明感を強める今、
今後の動向を判断するポイントを探ってみたい。
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●くすぶり始めた第2次アジア危機の火種
私は以前にもライブドアショックのあと、
日経平均は1万6000円プラスマイナス2000円あたりから
突き抜けていかないのではないかということを述べました。
その大きな要因は日本へ多くの資金を投入していた外国人、
特にヘッジファンド系の人が、
ここに来て利益を確定する動きに出ているからです。
この人たちは日経平均が8000円から1万2000円あたりで
入ってきていますから、
まだ利益のあるうちに確定しておこうというわけです。
彼らの中にはアイスランドやニュージーランドなどで
若干やけどをしている人もいますので、
どこかで取り返さなくてはなりません。
今はアメリカも景気の見通しが不透明ですから、
彼らは世界の各地でお互いに鞘を取り合って、
ある国では売却して利益を確定し、
そこで得た資金を他の国にまわすという動きをとっています。
今のこの資金の動きは、ほとんど予測不能といってよいでしょう。
今後はアジアの安定ということが非常に重要になってきます。
先週はアジア株の全面安という局面がありましたが、
これはインドの株式市場が今、非常に神経質になっていて、
今年になって20%くらい下げたことが原因の一つです。
インド株式市場の代表的な指標の一つであるSENSEX指数は、
ここのところ上がり続けていたために
高所恐怖症のような感覚があり、
下げはじめるとドーンと下落してしまう危険性を含んでいます。
このアジア株安のもう一つの原因は、
これまでかなり野放図に世界のマーケットに
資金を突っ込んできたヘッジファンドが、
資金の投入先を慎重に考えなければならない局面にあることです。
なぜかというと、これまで世界に対する
お金の供給源になっていた日本での利上げ観測が高まったことと、
アメリカでは利上げをするのかどうかわからない状況と
なっているからです。
韓国をはじめ、シンガポール、台湾、香港も
5月に入って一斉に株価を下げていますが、
今はまだ98年のロシア危機や、
97年のバーツの売り浴びせに始まった
アジア通貨危機といったところまでは来ていません。
しかし第2次アジア危機のトリガーを誰かが引く条件が
ほとんど整ってきているので、
危機に対する心構えはしておくべきだと思います。
●アメリカの景気を脅かす不安要因の数々
今後の市場を左右するのはやはりアメリカだと思いますが、
アメリカ経済の不安要因の一つがバーナンキFRB議長です。
アメリカは2年間に渡って行ってきた利上げを
停止するかどうかの大きな節目に来ていましたが、
ある夕食会の席上でバーナンキ議長が女性キャスターに
「利上げに消極的だという市場の見方は誤解だ」と
コメントしたことが報道され、
株価に大きな影響を与えました。
彼は株価が乱高下したことについて
自らの非を認めましたが、
私は本当に不用意な発言だと思います。
またバーナンキ議長はドルの信用を傷つけるような
発言もしています。
ドルというのは信用があるとみんなが錯覚しているから
維持されていますが、
アメリカは三つ子の赤字を抱えたままですから、
実際には信用するに足りない通貨なのです。
童話『裸の王様』で、子供が「王様は裸だ」と言った途端に
みんなが「やはりそうだったのか」と
認識するのと同じように、
ドルは信用できないとみんなが知ってしまえば、
ドスンと暴落してしまいます。
FRB議長はドルの信用を損ねるような発言を
絶対にするべきではないのです。
もう一つのアメリカの不安要因は住宅市場です。
4月の住宅着工件数は、前月比7.4%減で
3ヵ月連続の減少となりました。
実はアメリカはブッシュ政権になってから、
この住宅だけが個人消費のけん引役だったのです。
今までは住宅の値段は上昇する一方だったので、
人々は家を抵当に入れ、その抵当余力でお金を借りて
買い物をしていました。
いわゆる資産がフロー化することによって、
アメリカの景気はもっていたわけです。
それが不動産の価格が下がってくると、
もうお金が借りられないというだけでなく、
追証を迫られることになります。
すると資産がフロー化しなくなり、
アメリカの景気は一気にガクンと後退します。
住宅市場にかげりが見えた原因は、
インフレでもないのに金利を上げて、
アメリカにお金を戻そうとしているからです。
バーナンキ議長をはじめとするアメリカの金融政策担当者は、
もう一回世界中を恐怖に陥れないと教訓を学ばないのか、
と思うとがく然とします。
これらの不安要因に加え、先週は日本が米国債の保有比率を
下げているというニュースもありました。
米国債を多く保有しているのは、アメリカ人ではなく
日本と中国ですが、買い手が減ってくれば、
当然利回りを上げる必要に迫られるということも
考え合わせる必要があります。
不安要因が一つだけならば市場の動きも大方読めますが、
こんなふうに三つも四つも重なってくると、
どちらに行くのかを判断するのは非常に難しくなります。
これからはアメリカのみならず、常に世界中の市場動向に
アンテナを張り巡らせ、危機に十分備えた上で
判断を下していくことが必要になってくるでしょう。
-以上-