大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#115 株安は危機へのシグナルか?

2006年6月2日

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 株安は危機へのシグナルか?


 先週、世界的な株安が続く中で株価が乱高下した。
 アメリカの利上げ継続観測を受け、
 アジア株など新興市場に流入していた欧米ファンドの資金が、
 引き上げはじめていることが原因と見られる。


 アジア株の全面安、アメリカ経済の失速懸念など、
 世界の市場全体が不透明感を強める今、
 今後の動向を判断するポイントを探ってみたい。
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●くすぶり始めた第2次アジア危機の火種


私は以前にもライブドアショックのあと、
日経平均は1万6000円プラスマイナス2000円あたりから
突き抜けていかないのではないかということを述べました。


その大きな要因は日本へ多くの資金を投入していた外国人、
特にヘッジファンド系の人が、
ここに来て利益を確定する動きに出ているからです。


この人たちは日経平均が8000円から1万2000円あたりで
入ってきていますから、
まだ利益のあるうちに確定しておこうというわけです。


彼らの中にはアイスランドやニュージーランドなどで
若干やけどをしている人もいますので、
どこかで取り返さなくてはなりません。


今はアメリカも景気の見通しが不透明ですから、
彼らは世界の各地でお互いに鞘を取り合って、
ある国では売却して利益を確定し、
そこで得た資金を他の国にまわすという動きをとっています。


今のこの資金の動きは、ほとんど予測不能といってよいでしょう。


今後はアジアの安定ということが非常に重要になってきます。
先週はアジア株の全面安という局面がありましたが、
これはインドの株式市場が今、非常に神経質になっていて、
今年になって20%くらい下げたことが原因の一つです。


インド株式市場の代表的な指標の一つであるSENSEX指数は、
ここのところ上がり続けていたために
高所恐怖症のような感覚があり、
下げはじめるとドーンと下落してしまう危険性を含んでいます。


このアジア株安のもう一つの原因は、
これまでかなり野放図に世界のマーケットに
資金を突っ込んできたヘッジファンドが、
資金の投入先を慎重に考えなければならない局面にあることです。


なぜかというと、これまで世界に対する
お金の供給源になっていた日本での利上げ観測が高まったことと、
アメリカでは利上げをするのかどうかわからない状況と
なっているからです。


韓国をはじめ、シンガポール、台湾、香港も
5月に入って一斉に株価を下げていますが、
今はまだ98年のロシア危機や、
97年のバーツの売り浴びせに始まった
アジア通貨危機といったところまでは来ていません。


しかし第2次アジア危機のトリガーを誰かが引く条件が
ほとんど整ってきているので、
危機に対する心構えはしておくべきだと思います。



●アメリカの景気を脅かす不安要因の数々


今後の市場を左右するのはやはりアメリカだと思いますが、
アメリカ経済の不安要因の一つがバーナンキFRB議長です。


アメリカは2年間に渡って行ってきた利上げを
停止するかどうかの大きな節目に来ていましたが、
ある夕食会の席上でバーナンキ議長が女性キャスターに
「利上げに消極的だという市場の見方は誤解だ」と
コメントしたことが報道され、
株価に大きな影響を与えました。


彼は株価が乱高下したことについて
自らの非を認めましたが、
私は本当に不用意な発言だと思います。


またバーナンキ議長はドルの信用を傷つけるような
発言もしています。


ドルというのは信用があるとみんなが錯覚しているから
維持されていますが、
アメリカは三つ子の赤字を抱えたままですから、
実際には信用するに足りない通貨なのです。


童話『裸の王様』で、子供が「王様は裸だ」と言った途端に
みんなが「やはりそうだったのか」と
認識するのと同じように、
ドルは信用できないとみんなが知ってしまえば、
ドスンと暴落してしまいます。


FRB議長はドルの信用を損ねるような発言を
絶対にするべきではないのです。


もう一つのアメリカの不安要因は住宅市場です。
4月の住宅着工件数は、前月比7.4%減で
3ヵ月連続の減少となりました。


実はアメリカはブッシュ政権になってから、
この住宅だけが個人消費のけん引役だったのです。


今までは住宅の値段は上昇する一方だったので、
人々は家を抵当に入れ、その抵当余力でお金を借りて
買い物をしていました。
いわゆる資産がフロー化することによって、
アメリカの景気はもっていたわけです。


それが不動産の価格が下がってくると、
もうお金が借りられないというだけでなく、
追証を迫られることになります。


すると資産がフロー化しなくなり、
アメリカの景気は一気にガクンと後退します。


住宅市場にかげりが見えた原因は、
インフレでもないのに金利を上げて、
アメリカにお金を戻そうとしているからです。


バーナンキ議長をはじめとするアメリカの金融政策担当者は、
もう一回世界中を恐怖に陥れないと教訓を学ばないのか、
と思うとがく然とします。


これらの不安要因に加え、先週は日本が米国債の保有比率を
下げているというニュースもありました。


米国債を多く保有しているのは、アメリカ人ではなく
日本と中国ですが、買い手が減ってくれば、
当然利回りを上げる必要に迫られるということも
考え合わせる必要があります。


不安要因が一つだけならば市場の動きも大方読めますが、
こんなふうに三つも四つも重なってくると、
どちらに行くのかを判断するのは非常に難しくなります。


これからはアメリカのみならず、常に世界中の市場動向に
アンテナを張り巡らせ、危機に十分備えた上で
判断を下していくことが必要になってくるでしょう。



                       -以上-


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