大前研一「ニュースの視点」Blog

KON573「スズキ・NTTデータ・パナソニックヘルスケア~スズキの後継者選びはすでに失敗している」

2015年6月19日 NTTデータ スズキ パナソニックヘルスケア

本文の内容
  • スズキ 85歳"怪物"スズキ社長、辞めたくても辞められない事情
  • NTTデータ カーライル・アンド・ガラガーを買収
  • パナソニックヘルスケア 独バイエルの医療機器事業を買収

スズキの後継者選びは、すでに失敗している


ビジネスジャーナルは、8日、「スズキ、85歳“怪物”鈴木社長、辞めたくても辞められない事情」と題する記事を掲載しました。

これは、11日の決算会見で、鈴木修会長兼社長が事実上「90歳まで続投」を宣言したことを受けたもので、背景には独大手フォルクスワーゲンとの資本提携の解消をめぐる裁判やダイハツとのシェア争いがあるとし、2015年度の軽自動車市場は再びヒートアップすると指摘しています。

日本の偉大な経営者が抱える典型的な問題だと言えます。鈴木修社長の後継者は長男とのことですが、その長男にしても「いい年齢」でしょう。

その年齢になっても、株主や銀行から信任を得られていないということは、鈴木修社長が後継者の育て方を間違えたと言わざるを得ないでしょう。

鈴木修社長は偉大な経営者ですが、「後継者を選ぶ」という経営者として一番大切な儀式にはすでに失敗したということです。

あの経営の神様と言われた松下幸之助氏にしても後継者選びには失敗し、当時松下電器は長い間、大混乱に陥りました。偉大な経営者は、偉大な後継者を選ぶ、あるいはそのような人物が登場する組織を作り上げることができない場合が多いと感じます。

本田宗一郎氏も最後まで現役を貫くつもりだったそうですが、二人三脚で一緒に歩んできた右腕の藤沢武夫氏とともに、ある日突然退任しました。

その際、藤沢氏は「もう会社に来てはいけない」と本田宗一郎氏に言ったそうです。このくらい徹底的しないと、後継者に道を譲るのが難しいのです。

鈴木修社長は、言うまでもなく、経営者として非常に優秀な人物です。フォルクスワーゲンとの交渉のこともあり、現在85歳ですが90歳まで現役を続行すると宣言しました。確かにまだまだ頭脳は明晰ですが、将来のことを考えれば、投資家が不安になるのも致し方ないところでしょう。


NTTデータの買収は失敗する可能性大/パナソニックの買収は意味不明


NTTデータは8日、米カーライル・アンド・ガラガー・コンサルティンググループを買収すると発表しました。

買収金額は2億1250万ドル(約265億円)。NTTデータのITサービスや技術力とカーライルのコンサルティングのノウハウを組み合わせることで、海外での金融機関向け事業を強化する狙いとのことですが、私はこの買収は上手くいかないと思います。

おそらくカーライル・アンド・ガラガー・コンサルティンググループの株式の大半は、創業者と重役パートナーが保有していると思います。その人たちが、この買収により、265億円をポケットに入れることになります。

この会社の規模からすると、その恩恵を受けるのは100人くらいでしょう。仮に100人だとすれば、一人あたり約2億円のお金を得ることになります。

ITコンサルティング会社の場合、上流工程を担う人がクライアントへの提案からシステム要件の設計までを担当し、下流工程はそこで決定した事項をシステムに落としこむ作業がメインになります。

すなわち、「考える人(上流工程)」と「作業する人(下流工程)」が二極化しています。買収により億単位のお金を得るのは、上流工程を担当する人たちです。

この人たちがお金を受け取って、わが世の春を謳歌するがごとく、バケーションをとって好き放題にし始めたら、企業としてのパフォーマンスは著しく低下します。

このような場合には、例えば買収後も5年間は勤続することを条件にお金を渡す、という取り決めをしておくべきなのです。投資銀行が上手に取り計らっていればよいですが、今回の場合はどうなのでしょうか。

NTTは過去にも同じような失敗例が数多くあります。最近の例で言えば、2010年にNTTグループが約21億ポンド(約2860億円)で買収した南アフリカのIT大手ディメンション・データという会社がありますが、結局買収後も営業利益も売上も上がっていません。

コンサルティング会社やシステム会社といった業態の企業を買収する場合、こちら側から経営陣が乗り込んで、積極的に経営の舵取りをするくらいの人がいなければ、まず成功しないでしょう。

しかし実際にはそのような人物がいないから買収するわけで、日本企業は米国の投資会社によって何度も煮え湯を飲まされています。私が記憶する限り、NTTだけでも10~20も事例があります。

* * *

パナソニックヘルスケアホールディングスは10日、独医薬大手バイエルから糖尿病患者向けの血糖測定器事業を買収すると発表しました。

買収額は約1380億円で、世界に広がるバイエルの販路を手に入れ、製販一貫体制を築く考えとのことです。

しかし、製販一体化と言っても、そもそも今回買収する糖尿病患者向けの血糖測定器は、パナソニックヘルスケアがOEMで作っているものです。

確かにそれを上手に売ってくれているとも言えますが、それだけで1300億円の価値があるのか疑問が残ります。もっとも私には、元をただせば、なぜパナソニックはヘルスケア子会社を切り離したのかが今ひとつ理解できません。

パナソニックは子会社だったパナソニックヘルスケアの株式の80%を、KKRというファンドに売却しています。三洋時代から持っていた開業医が利用する日本一のシステムなども保有していましたが、それらも含めて手放しました。

バイエルから糖尿病患者向けの血糖測定器事業を買うのなら、手放した中にもっと良い事業があったのでは?と思ってしまいます。

単なる販売会社を1300億円で買収するという、今回のパナソニックヘルスケアの決断は、パナソニックがパナソニックヘルスケアを売却した理由とともに私には全く理解できません。

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※この記事は6月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はNTTデータの企業買収に関する話題をお届けしました。

記事中、ITコンサルティングにおいて上流工程は考える人、一方の下流工程は作業する人と大前は解説しています。

では、この「考える人」になるための条件は何でしょうか?事実に忠実になり考え、物事の本質を見出すこと… 常に顧客に軸足を向けること… 戦略を練り業績にインパクトを創出すること…

考える人とは、このような問題解決者の特性を携えています。

変化の激しい時代。自分の未来を切り拓くには、より高い視座で物事を思考できる問題解決者になることが求められます。

★7月開講クラスの受付けは6月23日(火)15時まで
問題解決力トレーニングプログラム(大前研一総監修)
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