大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON174 参院選の結果から何を読みとるか

2007年8月10日

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 年金問題 社保庁職員着服 総額1億3291万円
 参議院選挙 自民大敗37議席
 年内に衆院解散「44%」 安倍内閣支持率「28%」
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●参院選の結果は安倍首相への『×』。
              民主党の政策への期待ではない。


社会保険庁の職員らが年金保険料を着服、不正受給した事案が
1995年から2006年までに少なくとも24件あり、総額でおよそ
1億3291億円にのぼることが毎日新聞の調べでわかりました。


単に社会保険番号などの管理がずさんであるだけでなく、
年金加入者が納めた年金を着服しているということについては、
以前から指摘されていたことです。


私も何度もこのような危険性について警鐘を鳴らしてきました。


実際には、24件で収まるわけはないでしょうし、
グリーンピアの利権問題などを深堀りすれば、もっともっと
ドロドロとした社会保険庁の実態が明らかになるでしょう。


この問題を受けて自民党では、年金の不正利用を規制する
法律の整備や、社会保険庁の解体などを進めていますが、
私から言わせれば全く対応になっていません。


そもそも社会保険庁を解体して非公務員型の日本年金機構に
移行させると言っていますが、結果として職員が一人も
解雇されていないのは、私には全く理解できません。


本来ならば全員を一度解雇した上で、ゼロから新しい組織の
採用を行うべきです。もちろん、社会保険庁の職員の
優遇などはありません。


単なる社名変更と引越しでその場しのぎをするというのは、
日本の中央省庁による改革の典型的なやり方です。


もちろん、単に名前を変えたところで、実際の中身は
変わらないわけですから、“改革”と呼ぶに値しないのは
言うまでもないでしょう。


このような年金問題対策への不信などもあり、
先の参議院選挙では自民党は大きく議席を失うという
結果になりました。


世間では、自民大敗・民主圧勝という論調が強いようですが、
私に言わせれば、今回の結果は安倍首相に「×」を
突きつけたというだけで、民主党が選ばれたということでは
ないと思います。


これは「○×式教育」を受けてきた人たちの特徴的な考え方です。


そもそも、私から見ると、今回の選挙では民主党は具体的な
政策を述べていません。


ですから、今回の選挙で民主党の政策に期待したという人は、
まずほとんどいないでしょう。


参考:「選挙関係資料」チャート




●国体選挙の実現を期待。
 将来的に政治家のキャリアパス改善も必要。


積極的に民主党が選ばれたわけではないとしても、
就任当時からの安倍内閣の支持率の低下と今回の選挙の結果を
踏まえて、今年の秋には民主党による解散総選挙の可能性が
高まってきたと私は思います。


さすがに、今までのように数の論理に頼った力技だけでは、
この局面を打開するのは難しいでしょう。


そのとき、私が期待するのは「政策論争」の実現です。


単に政局化した結果、自民党がダメだから政権担当を変える
べきという流れでは、これまでの例を見ても成功していません。


「こういう日本を作るべきだ」という政策を民主党が打ち出し、
それに自民党が応える形になれば、いわゆる「国体選挙」、
「政党選挙」になります。


郵政民営化といった、1つの小さな政策を争点と
するのではなく、日本の国をどうするのかという点を
議論してもらいたいと強く願っています。


そういう意味で、例えば憲法問題についても、
第9条だけの議論ではなく、全面的に1から作り直す議論を
するべきだと私は思います。


国体選挙の実現に向けたサポートとして、私は今年の秋に
2冊の本を上梓する予定です。


1つは心理経済学の本、もう1つは憲法議論をまとめた本です。
ぜひ、国会議員の方々にも読んで頂きたいと思います。


このような国体を問う選挙の実現と共に、私が重要だと
考えているのが、国会議員の人材不足を解決することです。


端的に言えば、今の国会議員はスキル不足だと私は思います。


今、日本が抱えている問題を解決するためには、
世界の情勢から見て日本はこうあるべきと定義できるスキル、
あるいは、日本が抱える少子高齢化などの問題解決のために
世界の力を借りるスキルが必要です。


内政と外交を分けて考えること事態が誤りで、
それらを総合的に結び付けられるスキルがこれからの
国会議員には必要だと私は思います。


このような発想ができる人は、今の政治家の中にはほとんど
いません。


なぜなら、今の政治家は日本の外の世界をあまりにも
知らないからです。


中には、箔をつけるためだけに名ばかりの海外留学を
している人もいるでしょうが、まともに卒業証書すら
受け取れていないというお粗末な実態です。


海外の国々が一体どうやって経済成長を遂げてきたのか、
分かっている人はまずいないでしょう。


つまり、今の日本の政治家には、キャリアパス上の構造的な
欠陥があるということです。


このままではIT問題に対処できる政治家も、本当の意味で
年金問題に対処できる政治家も出てこないと私は思います。


逆に、トヨタやキヤノン、リコーといった民間企業で海外を
渡り歩いた本部長クラスの人や役員の一歩手前の人材であれば、
キャリアパスとして問題はないでしょう。


日本は、どこかの段階で、政治家にこのようないい人材が
流れ込んでくる局面を作り上げなければならないと
私は強く思います。


今後、解散総選挙になっても、これまでと同じような
政権交代だけでは全く意味がありません。


ぜひ、日本が抱える少子高齢化や年金問題などの諸問題を
解決できる“土台”をしっかり築き上げてもらいたいと思います。


                         以上


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