大前研一「ニュースの視点」Blog

KON571「アスクル・日本生命保険・サントリー ~創業時の輝きを失ってしまったアスクル」

2015年6月5日 アスクル サントリー 日本生命保険

本文の内容
  • アスクル 340万株上限に自社株買い
  • 日本生命保険 野村総研と資本・業務提携
  • サントリー JTの自販機事業を買収

かつての経営戦略が鈍り、「残念な」会社に成り下がったアスクル


アスクルは19日、発行済み株式総数の約6%にあたる340万株を上限に自社株買いすると発表しました。取得総額の上限は140億円で、これにより主要株主であるヤフーの議決権比率が上昇し、同社の連結子会社になる見通しとのことです。

アスクルほど「残念な」会社はないかも知れません。一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長して、非常にいいポジションを確立しました。

主に中小企業や小さな事務所に対して、翌日配達、すなわち「明日来る」という戦略を打ち出し、大ヒット。そのうち、重たい飲み物などを持ちたくないというニーズにも応えて、配送商品の拡大にも成功しました。

しかしその後、経営戦略が鈍り、低迷してしまいました。

私は好調な頃のアスクルについて、将来取るべき戦略を示したことがあります。築き上げた顧客関係を活用し、その社員の家族にまで関係性を広げるという方針です。社員の家族旅行のようなニーズも含めて、拡大していけば非常に面白いことになるし、様々な提携が可能になる、と。

当時の私の見通しでは、顧客の関係性の輪を10倍以上に広げていけると感じていました。まさに、「アスクル2」として新しい領域を目指すべきだと述べました。

しかしその後のアスクルは、新しい領域に踏み出すことなく、同じことばかりを繰り返して、いつの間にか輝きを失ってしまいました。

そして低迷した結果、ヤフーに買収されるに至ったということです。他人に議決権を握られてしまうとは、アスクル創業時の輝きは露ほども残っていないと言えるでしょう。

「アスクル2」の構想が実現していれば、家族にもメリットがあり、非常に魅力的な会社として発展できると思っていましたが、本当に残念な会社に成り下がってしまいました。

 

日本生命が野村総研に依頼する理由は何一つ理解できない


日本生命保険は26日、野村総合研究所と資本・業務提携すると発表しました。日生が約260億円で野村総研の第三者割当増資を引き受けて、現行0.5%ほどの出資比率を3%に上げるとのことです。

野村総研が持つ先端情報技術を使って効率的なシステムをつくるほか、ビッグデータを活用した新しい保険商品の研究にも取り組む狙いだそうですが、「なぜ、野村総研なのか?」「なぜ、資本提携する必要があるのか?」私には全く理解できません。

そもそも日本生命はシステム子会社を持っています。また、規模に差はありますがニッセイ基礎研究所というシンクタンクも持っているのですから、野村総研ではなく、そちらを使えばいいはずです。

さらに、3%の出資で260億円というのも意味不明です。3%程度の保有率では、実質的には何ら意味は持ちえません。

そこに260億円支払うのなら、出資などせず、普通に野村総研に業務を委託すれば良いでしょう。おそらく、2億円~3億円のプロジェクトで十分働いてくれるはずです。

これらのグループ会社が、何かしら大きな問題を抱えているのか?そうでなければ、説明がつかないほど私は理解に苦しみます。

 

サントリーが自販機シェアを取りに行くのは、非常に有効な手段


サントリー食品インターナショナルは25日、日本たばこ産業(JT)の飲料自動販売機事業を買収すると発表しました。買収額は約1500億円。業界2位サントリー食品の自販機は約63万台に増え、首位日本コカ・コーラグループ(約83万台)に近づくことになります。

自販機シェアを見ると、83万台のコカ・コーラが圧倒的に強く、2位のサントリーの49万台でも約半分という状況でした。今回、JTの飲料自販機事業を買収することで、サントリーは63万台になり、コカ・コーラに迫ってきました。同時に、アサヒビールの27万台に対しては大きな差をつけた形になります。

今後、サントリーとしては商品数が少ないので、JTから商品も買うなど商品ラインナップを揃える必要はあるでしょう。実態を見れば、自販機シェアは、直接的に飲料シェアにつながりますから、今回の買収はサントリーにとって非常に意味があると私は感じています。

最近、1つのメーカーの商品だけが並ぶ自販機ではなく、売れ筋のものをメーカーに関係なく並べている自販機も増えてきています。伊右衛門を始め、商品力に自信があるサントリーにとってはここも有効活用したいところです。

今回の買収額1500億円について、「その資産価値や営業利益からすると、割高ではないか?」と感じている人もいるかも知れませんが、私はおそらく妥当な金額だと思っています。

自販機の価値を考える上で重要な要素に、自販機を置かせてもらう「地面の利権」があります。自販機を設置する許諾をとり、ローカルの電気を引いて自販機を稼働させる必要があります。

こういった調整を1件ずつ行うことを考えると、17万件の交渉に要する稼働・コスト・時間は馬鹿にできません。手売りに比べると、自販機は設置数でほぼシェアが決まりますから、収益の見込みも安定しています。

これらを考慮すると、1500億円も高くはないと判断したのだと思います。

---
※この記事は5月31日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はアスクルに関して記事をお届けしました。「明日来る」という戦略を打ちだし成功を収めた同社。しかしその後、新領域に踏み出せず低迷し、買収されるに至りました。

同じことを延々と繰り返しているだけでは、変化の激しい現代のビジネス社会についていくことは出来ません。

顧客の変化を敏感に感じ取り、まだ満たされていないニーズに対して新しい戦略を考えることが、生き残るために求められています。

そのためには、どういった切り口で世の中を見るのが良いのか?問題解決において重要な視点です。

★7月開講クラス募集中!一流のプロが教える「考える技術」
問題解決力トレーニングプログラム(大前研一総監修)
http://tr.webantenna.info/rd?waad=kB56jPN4&ga=WAAAAk-1

問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点