大前研一「ニュースの視点」Blog

KON564「フィリップス・GEヘルスケア・自動車業界~選択と集中を考える」

2015年4月17日 BMW GEヘルスケア フィリップス ルノー

本文の内容
  • フィリップス 2事業を投資ファンドに売却
  • GEヘルスケア・ジャパン MRIの新製品を発売
  • 米テスラ・モーターズ EV世界出荷台数1万30台
  • BMWグループ・ジャパン アマゾンで新車販売を開始
  • 仏ルノー ルノー株の買い増しを発表
  • 中国自動車大手 あえぐ中国ブランド車

フィリップス、GEの選択と集中の方向性に疑問


オランダのフィリップスは先月31日、自動車用照明と発光ダイオード(LED)照明部品の両事業を投資ファンドに売却すると発表しました。両事業を統合した新会社ルミレッズの株式の80.1%を28億ドル(約3360億円)で売却するとのことです。

この経営方針は、正直私には理解できません。フィリップスが強さを誇っているのは、ヘルスケアと照明です。その照明の大部分を売却するというのです。

さらには、コンシューマー用品でも、調理器具、理美容器具を残して、テレビ事業などは売却する方針です。かつて松下電器が憧れたフィリップスの面影はありません。GE、シーメンスと共に世界市場をほぼ独占しているメディカル・ヘルスケア分野は残るものの、不安を拭いきれません。

大胆に「選択と集中」をしているとも言えますが、もう少し粘るべきだと私は感じています。実際、投資ファンドは「買う」という判断をしているわけですから、何とかする算段があるのでしょう。

なぜフィリップスではできないのか?と思ってしまいます。

* * *

GEヘルスケア・ジャパンは、日本の技術陣が開発を主導した磁気共鳴画像装置(MRI)の新製品を9日発売しました。

脳の病気の診断に必要な複数の画像を1回で撮影できる新技術を搭載。スキャンにかかる時間を従来の15分前後から5分程度と約3分の1に縮めました。GEヘルスケアが世界展開するMRIの主力製品となるとのことです。

私も年に1回はMRIで検査をしているのでわかりますが、かつては1時間ほどかかっていたMRI検査ですから、5分というのは画期的だと言えるでしょう。

この新商品の性能は素晴らしいのですが、一方でサービス事業や金融事業を大々的に売却する経営方針には疑問を感じます。

10日には、約265億ドル(約3兆1800億円)規模の不動産や関連金融資産を売却すると発表しました。不動産事業、金融事業を売却し、縮小を図り、ビッグデータを活用したメーカーとして製造業に回帰するとのことです。

9兆円もの資金を株主還元するとも発表していますが、私にはもはや「店じまい」「バーゲンセール」に感じられます。

GEキャピタルの業態はお金を大量に抱えなくてはならず大変なのはわかりますが、わざわざ回り道をしてGEキャピタルを経営してきた意味がなくなってしまいます。9兆円もの資金を株主還元した後、どのような道を歩むのか、私は懸念しています。


テスラ、電気自動車普及の壁/アマゾンでのBMW電気自動車販売は話題性づくり


米テスラ・モーターズは、2015年1~3月期の電気自動車の世界出荷台数が前年同期比55%増の1万30台にのぼり、四半期として過去最高となったと明らかにしました。中国では苦戦しているものの、米国を中心に高級セダン「モデルS」の販売が好調だったとのことです。

日産の電気自動車も世界で6万台販売されているそうですが、充電施設不足で苦戦しています。

テスラのほうが走行距離は長いのですが、それでもこの問題は避けられません。テスラの昨年1年間の販売台数は約17,000台とのことです。この規模では大々的に充電施設を作る動きも取れません。

この壁をどう突き抜けて行くか?今、ちょうど苦しいタイミングなのかも知れません。

* * *

BMWグループ・ジャパンは1日より「Amazon.co.jp」にて同社の電気自動車「BMW i3」の新車販売を開始しました。日本には「i3」を販売するディーラーが46店舗ありますが、ネット販売でさらにその販路を広げようとしている狙いです。

販路を広げると言っても、実際にはアマゾンで車がどんどん売れていく、ということにはならないでしょう。

今回の狙いは、アマゾンのレコメンド機能を活用し、実際に電気自動車に興味を持つ人が、他のどんな商品に関心を持っているのかなど、属性データを把握することだと言われています。

カーボンで作られた電気自動車は、「環境に対する意識が高い人」をターゲットにしていましたが、なかなかディーラー経由では売れないため、マーケティングリサーチをしたいのかも知れません。

ただ、私はほぼ「話題性」を狙ったものだと見ています。


ルノー、日産は仏政府に実権を握られた/中国製の自動車に警戒心を見せる中国国民


フランス政府は8日、自動車大手ルノー株を証券会社から買い増すと発表しました。最大12億3200万ユーロ(約1600億円)を投じ、保有比率を19.74%に引き上げる方針です。

フランスでは法律が改正され、2年以上株を保有している人の影響力が大きくなります。フランス政府としては、ゴーン氏の任期が残り2年という、今このタイミングで15%から20%程度に保有比率を高めておくことで、将来の影響力を発揮したい狙いでしょう。

日産も大株主ですが、日産には「投票権がない」という不公平な条件を受け入れています。過去に日産が苦しい状況の時に株式を持ってもらったという経緯もあり、致し方なかったのでしょう。

日産もルノーも会長はゴーン氏ですが、ゴーン氏もフランス政府に首を握られる格好になり、ますます日本の社員、ディーラーの影響力は低下するでしょう。

これは、ルノーにとっても日産にとっても、良いことではないと私は感じています。

* * *

日経新聞は、4日「あえぐ中国ブランド車」と題する記事を掲載しました。

3日に出そろった主要な自動車大手の2014年12月期決算では、比亜迪(BYLAWS)や吉利汽車など独立系を中心に大半が大幅減益に陥りました。新車需要の大半は海外ブランド車に流れる構図がより鮮明になり、知名度や技術力で劣る中国車がいよいよ窮地に追い込まれていると指摘しています。

一時中国では、雨後の筍のように自動車会社が立ち上がりました。例えば、吉利汽車などは、フォードの傘下にあったボルボを買収するなど好調さを見せていましたが、結局、ボルボは売れても自社ブランドの車が売れない状況になっています。

中国政府は懸命にテコ入れを図っていますが、中国の国民が「中国製の自動車」に対して強い警戒心を持ってしまっています。

政府の言いなりにならない中国国民という構図が浮き彫りになってきています。

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※この記事は4月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、医療機器メーカーや自動車業界の企業動向をお届けしました。

事業を売却し、選択と集中を図ったフィリップスとGEヘルスケア・ジャパン。戦略の基本として、選択と集中という考え方があります。

これは、自社の強みを把握し、そこにリソースを注ぎ再編成を行うことで、業績や事業価値を上げようとする考え方です。

ただし選択と集中の意思決定を行うためには、様々な要素を考慮する必要があります。多くのステークホルダーに影響が出てくる重要な決断だからこそ、「本当にやるべきなのか?」というゼロベースの観点での検討が求められます。

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