大前研一「ニュースの視点」Blog

KON561「中国投資銀行・中国経済政策・STX大連~中国投資銀行設立の狙いとは?」

2015年3月27日 STX大連 中国投資銀行 中国経済政策

本文の内容
  • 中国投資銀行 仏、独、伊も参加へ
  • 中国経済政策 経済成長目標「7%前後」
  • STX大連 破産手続

中国が投資銀行を設立したい本当の理由/日本は米国に振り回されるな


17日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、中国主導で年内発足を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、フランス、ドイツ、イタリアも参加すると報じました。

英国に続き、欧州主要国が加盟で合意したことは、投資銀に距離を置くよう働き掛けてきたオバマ米政権の「打撃」になると分析しています。欧州主要国など様々な国の参加が決まり、当初の予定を上回り最終的には中国が資本金の3割程度を提供する形に落ち着きそうです。

なぜ、今になって中国がこのような動きを見せているのか?世界銀行もアジア開発銀行も先進国が牛耳っていますが、まだまだアジアにはインフラを整備する必要があり、そこに投資を集中する銀行が必要だ、というのが理由です。

これに対して日米は運営の透明性を問題にしているようですが、IMFにしろ、世界銀行にしろ、運営の透明性という点では似たようなものだと私は感じます。

そして、中国がこの銀行を設立したいと考える、より本質的な理由は「中国経済のスローダウンと崩壊」に関係があります。中国は巨大な建設機械を使い、鉄道、道路、橋などを次々と建設してきましたが、今や中国経済はスローダウンし、中国の建設市場も失速しています。

このまま巨大な機械を中国国内に鎮座させていても、何も意味はありません。中国企業に限界が来る前に、早く巨大な機械をアジアに持って行かなくてはいけないと考えているはずです。

ここに来て、日本も参加するような姿勢を見せていますが、最初から参加表明をしているフランス、ドイツ、イタリアを中国は優遇し、当初反対姿勢だった日本が優先されることは考えにくいと思います。

日本の態度に一貫性がないのは、米国の意向を受けて態度を決めかねているからです。何ともみっともない話です。中国主導の投資銀行に参画するのか、あるいは別の道を行くのか、明確に態度を決定すべきだと思います。

中国と袂を分かつというのならば、アジア開発銀行で同じようなインフラを作れば良いでしょうし、もし中国と一緒にやるのなら、中国に次いで資本を入れるくらい積極的にならなければ意味がないでしょう。

注意したほうが良いのは、今、中国は「焦り」を感じており、そのようなときには、投資判断が間違う可能性は高いということです。投資するのは良いですが、実際に回収できるのか?途上国に投資してリターンがあるのか?このあたりを考えると、決して簡単な道のりではないと思います。

その意味でも、中国とは別の道を選び、アジア開発銀行でアジアのインフラ整備をするというのも、一つの選択肢として検討するべきでしょう。


李克強指標(インデックス)に見る中国の成長率/造船業では日本企業が健闘


15日に閉幕した全国人民代表大会は2015年の成長率の目標を前年よりも0.5ポイント低い「7%前後」とする方針を正式に確認しました。李克強首相は小刻みな政策対応で安定成長を続ける「新常態(ニューノーマル)」を保つとしながら、この目標の実現も「簡単ではない」と認めました。

人民銀の周総裁が、預金金利の上限撤廃をなくすと発表するなど、全人代では様々な意見が出たようですが、そもそも気になるのは中国が公式発表している成長率の数値への疑念です。中国の場合、GDPの算出にあたり、どのような統計を使い、どのような計算をしているのかという点が明確になっていません。

中国経済の成長率を測る経済指標に、「李克強指標(インデックス)」と呼ばれるものがあります。これは、「電力消費」「鉄道貨物取扱量」「銀行融資」といった実体経済にリンクした数字がどのくらい動いているかを見て成長率を測るもので、李克強首相が遼寧省で党委書記を務めていた時に着眼していた指標です。

李克強指標(インデックス)によると、直近の成長率は5%程度です。中国政府が受け入れるかどうかは別として、公式発表の数値に信頼が置けない以上、こういう指標を使わざるを得ないというのが問題でしょう。

また、李克強首相にはこんな逆風も吹いています。韓国STXグループ傘下で、中国最大級の外資系造船所STX大連が経営再建を断念し破産手続きに入りました。

李克強首相が遼寧省トップ時代に誘致し、東北振興の目玉事業と位置づけられたプロジェクトですが、2008年のリーマン・ショックを機に造船不況が深刻化し受注が低迷。従業員は一時、2万人に達し今も数千人いますが、全員解雇になるとのことです。

李克強首相にとって最大級の痛手であり、中国造船の不況は相当厳しいものがあります。実は中国だけではなく、韓国の造船もそれほど調子が良くない状況になっています。一時の中国の勢いを見ていたら、日本も韓国も枕を並べて討ち死にかと思っていましたが、円安の追い風も手伝って意外と今治造船などが健闘しています。

現在の造船業では、世界最大級のコンテナを積み込めるスーパータンカーが競争優位のポイントになっています。スーパータンカーの受注状況などを見ると、日韓で半々ずつという形になっていて、まさにヒュンダイや今治造船が競い合っています。

最近、韓国では日本の競争力に大騒ぎになっています。韓国のインターネットなどを見ていると、韓国も競合しているように見えるが、「結局のところ、部品は日本からの輸入に頼っているため、最終的に日本には敵わない」という意見も見られます。

韓国の苦戦どころか、中国はこの競争に参画すらできていないのが実態ですから、李克強首相にとっても厳しい状況だと言わざるを得ないでしょう。

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※この記事は3月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は中国主導の投資銀行に関する話題をお届けしました。

今になりこのような動きを見せている中国。大前は記事中、その本質的な理由を中国経済のスローダウンと崩壊にあると指摘しています。

その現象はなぜ起こっているのか?現象の背景を推測し、仮説を立てることが分析に当たって重要となります。

闇雲に分析を始めようとしては、効率が悪くなるばかりです。問題解決においては、このような仮説思考による取り組みが、大きなインパクトを創出することに繋がっていきます。

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